ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

近所の適当な川の始まりから終わりまでをたしかめると楽しい

旅行やお出かけができないときは、近所の散歩の範疇でエンジョイすることになる。すぐ思いつくのは公園だけれど、公園もそれなりに人がいて、social distance的にどうなのと思うこともあるし、そもそも、人が少ないことが公園のよさでもあるので、人の多い時期に行ってもあんまり楽しくない。
 
ではどこに行けばよいのか、せっかくだから、今までしてこなかった散歩をしたい、置かれた場所で咲きたい……と思って思いついたのが、近所の適当な川の最初から最後までをたしかめる散歩である。多摩ニュータウンを横断するように流れている乞田川という川を、わたしは毎日のように見ているが、この川がどこから来てどこへ行くのかを見たことがない。川の名前にいくぶん不思議な響きがあるが、この地域はかつて飢餓が多く発生し、領主に田んぼの耕作をさせてほしいと乞うたという説もあるが、モニュメントのようなものはとくにない。
もしかしたら乞田川の終わりは大きな滝のようになっていて、そこが世界の端かもしれない。乞田川の始まりと終わりをたしかめずに、よく今まで生きてこられたな……などと気持ちが高まってきてしまった。
 
以下はあくまで一例で、乞田川のことをまったく知らない人が見ても面白くないはずである。いまから紹介する風景が、自分の近所だったらどこになるだろうと思いながら参考にしていただけると大変ありがたい。
 
乞田川は、唐木田を源流として、多摩センター、永山と流れ、聖蹟桜ヶ丘近くで大栗川に合流し、その大栗川も多摩川に合流する。多摩ニュータウンに住んでいるなら、なんとか散歩でおさまる距離である。
多摩センターと永山の間は桜並木があり、地域のお花見の名所にもなっている。
 

近所の川の源流は概ね源流らしくないものである

そんな乞田川の源流は、唐木田の給水所近辺と言われているが、流れを確認できるのは、唐木田駅近くの鶴巻西公園からである。

 

鶴巻西公園内では小川が横断しており、小川の始まりのような場所もある。

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なるほど、ここが源流なのかぁ~という気分にもなってしまうが、それは気のせいで、この水はさらに上のRPGのセーブポイントのような場所からポンプで送水されている。

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この公園に大自然を求めていくとがっかりするが、多摩ニュータウンならではの公園を見たいのであれば、オススメ度は非常に高い。
 

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これが湧水風小川を生成中のポンプの勇姿。
 
話がそれたが、本当の源流は公園から外に出る殺風景な溝みたいなところから始まる。

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まあ「家から近いから」という理由で選んだ川の始まりなんてこの程度だろう。ここから多摩川に向かって歩いていこう。
 

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上流だと水量が少ないが、このように、近くの雨水を集めて少しずつ流れが太くなってくる。
 
10分ほど歩くと、暗渠になっている中沢川と合流する。
下の写真の手前が中沢川で、右がわれらの乞田川。奥に向かって流れている。

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近くに「落合」という地名があるが、この合流地点を指していたらしい。今の落合は多摩センター駅の近くで、この落ち合っている場所は鶴巻になっているが、そのへんの詳しい経緯までは調べきれなかった。
 
その合流地点から遊歩道が始まる。

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合流地点にはベンチがあり、ここに座って「合流してるなぁ~」と感慨にふけるのもよい。
 
ふと周囲の建物に目を遣ると、きぬた歯科。
マンションにダイレクトに書いてあるのは珍しいのではないだろうか。

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乞田川の鳥は、鴨と鳩とカラスくらいしかいないのだが、no鳥でもいいやと思っているので、鴨が寝ているところなどを撮れてラッキーと思った。

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夢いっぱいのくつろげるゾーンに突入

多摩センターに近づいてくると、桜並木ゾーンに入る。

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そして、より川に近いところを歩くこともでき、何箇所かで川岸に出ることもできる。
 
とくに、多摩センター駅のすぐ北あたりは、蔦が成長しすぎていて壁のようになっていておすすめ。

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このあたりでお弁当などを食べることも不可能ではないのだが、ただ、「一組だけ先客がいる」という状態が多い。何組も人がいるか、まったく無人なら気兼ねしなくていいのだが、一組いるなかで一人で参入するのは、なんとなく気まずいので、実際あまりお弁当を食べたりしたことはない。
 

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そして、この小さな川、よくわからないが一級河川なのであった。
そのわりには名前が消えているが……。
 
多摩センターと永山の中間地点では、流れが緩やかになって、葦が生えている。

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この川で一番好きなところである。
 

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川沿いの遊歩道では、近所の人たちが花を植えていて春~夏はかなり賑やか。
 

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永山に近くなってくると、整備されてきて、高低差が大きなところは魚道のようなものが作られている。
 

f:id:kokorosha:20200429073156j:plainこのあたりは見晴らしもよくて、ニュータウンという語のイメージがしっくりくるが、整備されすぎていて、もうちょっと野放しな感じにしてくれてもいいのにな、とも思う。

 

f:id:kokorosha:20200429073202j:plain子鴨たちが媼にパンの耳を与えられていた。

 

f:id:kokorosha:20200429073214j:plainしかしカラスが登場し、ほとんどすべてを器用に奪っていった。

 

f:id:kokorosha:20200429073208j:plainこの子は収穫なし子……。

 
永山の手前で桜並木はなくなるのだが、そのあとは適宜、ハナミズキなどが植えてあって(源流から歩いていても)飽きない。

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聖蹟桜ヶ丘近くの大栗川との合流地点に近くなってくると、最初見たときと比べるとかなりの川幅になっている。
源流の写真を見ながら、「あの子がこんなに大きくなって……」と感慨にひたるのもいい。

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夢にまで見た大栗川との合流地点

ここが合流地点。

f:id:kokorosha:20200429214011j:plain奥側が大栗川だが、いままで乞田川沿いを歩いてきたせいで乞田川の肩を持ちがち。

「なんか大栗川の水が濁ってるねぇ……」と思ってしまうのであった。
 
乞田川はここで終わり、大栗川になるのだが、せっかくなので多摩川に合流するところまで見届けていこうと思った。

f:id:kokorosha:20200429073244j:plainいい風景かどうかは措いて、大栗川に合流してすばらしい太さに成長していることはたしかである。

 

f:id:kokorosha:20200429073250j:plainこの謎ゾーンは大栗川と多摩川の中洲にあたる。

 

f:id:kokorosha:20200429073256j:plainテトラポッドの墓場のようである。

 

クライマックスに向けて地味な諸施設が姿を現す

さらに先を進むと、多摩川との合流地点。多摩市市立交通公園がある。

f:id:kokorosha:20200429073308j:plainここで交通ルールを学んだりできるらしい。

 

f:id:kokorosha:20200429073302j:plainプロトタイプみたいな信号がかわいらしい。

 
そして、さらに先には野鳥観察小屋がある。

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f:id:kokorosha:20200429073318j:plainじっくり観察してやろう……と思ったのだが、わたしがここに身を隠して観察していても、ほかの人類が外にいるから、意味はなさそうである。この小屋が目的通りに使われたことはないのかもしれない。

 
そして、まだここで多摩川とは合流してはいないので、奥に進む。

f:id:kokorosha:20200429073330j:plain大栗川を見て「大河だなぁ」などと思ってしまったが、多摩川のスケール感に圧倒された。

さんざん整備されてはいるものの、大自然を感じてしまったのだった。
 

f:id:kokorosha:20200429073335j:plain歩いても歩いても先が見えず、本当に合流するのかと思うし、石の大きさがまちまちでで非常に歩きにくい。

 

f:id:kokorosha:20200429073341j:plain大栗川、ここにきて、対岸が粘土むき出しの崖になっていて不気味である。

 
ここが合流地点。

f:id:kokorosha:20200429073347j:plain釣り人がいたのでここで撮影するにとどめた。

もうちょっと近くで見たかったけど……。
 
乞田川というか大栗川の終わりをたしかめて幾分落ち着きを取り戻したので、せっかくなので、大栗川と多摩川の比較をしてみた。比較といっても匂いを嗅ぐだけだが。 

f:id:kokorosha:20200429073324j:plain大栗川はその見た目とは裏腹にほぼ無臭だった。

 

f:id:kokorosha:20200429073353j:plain多摩川はビューティフルな見た目なのに、いかにも処理しました的な匂いがした。

 
それもそのはず、乞田川・大栗川が流れる八王子市、多摩市の下水は、この煙突の先の処理施設で処理され、多摩川に流される。つまり乞田川と大栗川には処理水が流れていない。いっぽう、多摩川はこの時点で処理済みの水が流れてきているので、特有の匂いがする。東京湾と同じ匂い。
 
じゃあこの匂いが嫌かというと、そうではなくて、都会の匂いとして、風情を感じる。
 
 
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源流のような場所から約2時間で多摩川との合流地点に着いた。
これで乞田川のすべてを知ったという満足感がある。いちばん近くにある川の始まりから終わりまで見たという体験は、思いのほか日常に魂の平安をもたらしたのだった。
これをお読みになった方も、近所にちょうどいい規模の川があったらぜひ実践してみていただきたい。