ココロ社

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今さらながら、渋谷の神座ラーメンが猛烈に楽しくておいしいことを発見した

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もう十年以上前の話になるが、大阪から東京に、「神座ラーメン」というラーメン屋が進出してきた。
武士気取りの名前のラーメン屋でも怖気づいてしまうものだが、よりによって、神様のいる場所である。
そもそも、大阪で一番人気のラーメン屋という触れこみの「人気」は、精査が必要である。「○○で人気の店」が実際に○○ではさほど人気がないということは大阪に限らずよくあることだし、また、大阪出身のわたしが言うのでたしかだと思うのだが、大阪人は店を選ぶとき、おいしさを重視しない瞬間がある。それはdiversityにもつながるので、とてもいいことだと思うのだが、おいしさを求めているときに、おいしさ以外を重視している店に入るのはつらい。
むかしミニコミ紙のコラムで、大阪人に、「◯◯ラーメンって混んでるけど、なんかインスタントラーメンみたいじゃない?」と言ったら、「そこがええんやん」と返されて絶句した……という話を読んだことがあるが、そういう感覚で「一番人気」になっている可能性もなくはない。

東京に何店舗かあるのだが、わたしがよく通る道にある渋谷店には、開店してからしばらくの間、けっこうな行列ができていた。
ある日、もしかして好きな味の店だったりするのかも……と思い、行列が少ないタイミングで入ってみたのだが、鍋のあとのラーメンのようで、わたしが求めているラーメンとは違ったのだった。
おそらく、もっとvividな味わいを期待していたのだろう。



しかし、それから十年以上の時が経った。レコード屋の行き帰りで、ほとんど毎週末、神座ラーメンの前を通っており、時をかけて、ゆっくりとあのときの記憶が改竄され、徐々に「実はあのときは体調がよくなくて、実は好きな味のラーメンだったのかもしれない」という気がしてきて、ついに悠久の時を経て、気持ちがピークに達して入店することにしたのだった。

とくにここ数年、この店は外国人専用のラーメン屋に変化しているなとは思っていた。
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看板はこの調子である。 Shrine of RAMENなどとは言わないようだ。
よく見るとスープwithヌードルズであってヌードルズwithスープではない。これはとても大事なことである。



また、自動販売機まわりも、うっかりしていると日本語の表示が見つからない。日本語の表示は右側にある。
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ほかにもラーメン屋はあるのに、日本の平均的なラーメンから大きく外れているはずのこの店が突出して外国人に最適化された店構えに変わっている。
海外のおすし屋さんはこんな感じなのかな……と思う。海外旅行にきた気持ちだ。


店に入ると両隣が外国人。右隣は、娘に「RAMEN」と言われたらしい母娘で、母親は娘がRAMENを啜るのを退屈そうに見ている。娘はRAMENに夢中で、わたしもはやく食べたいと思う。左隣の若者は、餃子一皿だけを注文して、またたく間に店を後にしていて、この店で餃子だけを頼むとはどういうことか……と思ったのだが、よく考えたら、わたしも海外旅行に行ったとき、現地の人が何それと思ってしまうようなことをしているのかもしれないと思った。
このあと、何度も行ったのだが、両隣ともが日本人になる確率は非常に低い。

両脇を観察しているうちに、注文していた「おいしいラーメン」がやってきた。
ノーマルな店だと、これは「ラーメン」というメニューである。神座ラーメンでは「おいしい」がつく。
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10年ぶりにスープを飲んでみると、醤油ベースのスープの中に甘みが感じられ、ほかで得がたい味だった。
豚骨や魚介の味の濃いスープに飽き飽きしているが、かといって昭和そのままのラーメン屋もチョット……と思っている人にとっては新鮮だと思う。なお、この甘味の源泉は豚肉かなと思ったが、店頭に「スープに豚は入っていない」の英語表示があって、謎が深まるばかりである。
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また、RAMENを食べたことのない外国人たちの驚きを共有しながら食べるとおいしさがアップする。彼らはとてもおいしそうに食べるし、われわれも、初めて外でラーメンを食べたとき、彼らのような反応だったに違いない。初心を思いだしながら食べられる店は他にない。
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たいして興味がなかった「神座ラーメン」だったが、時を超えて、わたしにとっては最高にいい店になっていた。


最近、渋谷に行くことと神座ラーメンに行くことがセットになってきていている。
いまもほとんど満席ではあるものの、待つことはあまりないので、興味を持った人は、ぜひ行ってみて、キョロキョロしながら食べていただきたい。

店のサイトには「違和感のち確信」と書いてあり、直接的な表現に笑ってしまったが、本当にそのとおりなのだからそう書くしかないのだろう。
この店に限らず、最初に好きと思えなかった店も、時間が経つと、自分も店も変わってくるので、ふとしたときに再訪してみるのもおすすめである。


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