先に、忙しい人(お仕事無理せんといてね……)のためにまとめておいたので参考にしてほしい。このまとめ以下は単なるポエムなので読む必要はない。
- 2019年の三十槌の氷柱の公開期間は2月17日(日)、あしがくぼの氷柱の公開期間は2月24日(日)まで
- 急行バスに合わせて特急を予約すると楽
- 「三十槌の氷柱+三峯神社」のセットより、「三十槌の氷柱+あしがくぼの氷柱」の方が楽しいかもしれない
- あしがくぼの氷柱だけでもお釣りがくる(何のお釣りか知らんけど)感じがある
在学中にスクールカースト上位で、就職してからも会社カースト上位にいるような人でも、冬になると、ふと三途の川の向こう岸がどうなっているのかについて興味を持ってしまうことがあるという……などと微妙なデマから書き始めてみたのだが、誰しも部屋にこもりがちな季節であることは事実だろう。コミュニケーション界におけるカースト上位の人であれば、「最近引きこもりみたいでさぁ……」などと語り始めるかもしれない。彼はきっと、土曜の午前中家にいただけで、夜の飲み会で「引きこもっていた」などと表現して同情を誘うのだろう。それはただの「在宅」であり、引きこもりをナメるな!……と言ってやりたいところだが、わたしもそこまで引きこもっていないので偉そうなことは言えない。人々が部屋にこもりがちなこの季節に、わたしが首都圏在住の皆様に訴えたいことといえば、「冬には冬なりの楽しいお出かけがある」ということである。
首都圏在住の者にとって「冬ならではのお出かけ」は困難を窮めることはご存知のとおりである。たとえば高尾山に行こうと思って行ってみても、そこにあるのは、秋と変わり映えのしない、単に気温が低くなっているだけの世界であり、冬に行くメリットといえば、人が少ないことくらい。高尾山以外の名所、たとえば上野動物園などでも同じことである。やはり豪雪地帯の雪かき体験に参加し、もしかしてこれってただの無賃労働ではないかと首を傾げながら雪かきをしたりするしかないのだろうか……と思っていたら、首都圏にあるのにあんまり首都圏にある感じがしないゾーン、つまり埼玉・秩父で、冬ならではの氷柱「三十槌の氷柱(みそつちのつらら)」を鑑賞できると知り、さっそく向かうことにした。
西武特急は前日でも窓際席の予約がとれて穴トレインである
「三十槌の氷柱」は、秩父駅や三峰口駅から三峯神社に向かう途中にある。関東で最も重要な聖地とみなす人も多い三峯神社とセットで訪れる人も多いようだけれど、神社の奥の院に行くことを冬季は推奨されていないこともあり、神社と奥の院を合わせては春や秋に訪れるのが適切かもしれない。奥の院に行かなくても三峯神社をコンプリートしたという実感が得られる方ならこの機会にあわせて行ってもよいかもしれない。そういう方は、高野山の奥の院にも、金刀比羅宮の奥の院にも行かなくても平気なのだろう。分別なく何でもコンプリートしたいと思ってしまう人よりも、やめどきを正確に見極められる人の方が幸せに暮らせるのかもしれない。
電車で行く場合は、池袋から特急に乗って、終点の西武秩父で降り、そこから急行バスに乗る。西武特急は前日の夜でも窓際の席が確保できるほどで楽勝。その楽勝の背景には運賃と特急料金がほぼ拮抗しているアンバランスさにあるのかもしれないが、そんなことはどうでもよろしい。急行バスは昼に近くなってくると混雑してくるので、最初のバスに間に合うように特急の手配をすればスムーズである。
今回乗ったのはニューレッドアロー。見た目あまりレッドでないのが少々寂しかったのだが、ニューなのはよいし車内は快適だったので大満足。
3月からは宇宙的デザインで、窓が足元まで及ぶラビューが運行され、次回三峯神社に行くときは乗って報告させていただきたいと思っている。車窓の風景が抜群かというとそこまでではないのだが、大きな窓によって開放感を満喫できることは間違いなさそうで、楽しみである。
三十槌の氷柱は二種類ある。比較的すごい氷柱と、すごい氷柱。
池袋から西武秩父までは約80分。急行バスには45分程度乗るので、座れた方がらくだけれど、急いでバス停に向かわないと座れないかもしれない。このような「駅に着きました~」的な写真は帰りのときに撮った方がいいかもしれない。
バス停「三十槌」に到着。
入場には200円必要。観音開きになっていて、間違って拝んでしまいそうだがpayするところである。観音もpayするところだから同じか。
「環境整備協力金」とのことで、この名前のものものしさが、徴収する側の後ろめたい気持ちを言い表しているように思う。シンプルに「入場料」でイイっすよと思う。
バス停から川辺に降りると、向こう岸がもう氷柱の世界である。
始発の急行バスに乗ると、9時半について、このように人も少ない、
すばらしいねーと思いながら撮る。
ふと振り向くと、「天然氷柱ゾーン」の看板。
つまり、人工の氷柱もあるということか……と思って先を見ると……。
人工ゾーンの看板。
説明で「人類の叡智を絞って天然よりも豪華な造形を!」などとしてほしかったが、人工だけどほとんど自然だよ的なアピールに終始している。
氷柱をわざわざ人工で作ってどうするのと思ったのだが、実物を見て思わず納得。
オォ……神よ……人工氷柱の方が面積が広くて氷柱も厚い。雑にまとめると「人工氷柱の方がいい」ということになる。
ここで天然の氷柱が霞んでしまったが、では天然の氷柱の引き立て役として小規模にした人工の氷柱を公開してはどうかと考えた。しかし、それでは人工の氷柱を公開する意味がまったくなく、つまり今のあり方が正解である。
鑑賞の順番として、「天然の氷柱→人工の氷柱」の順番で徐々にビルドアップしていく流れになっているのは大変ありがたい。もし逆の順番で「人工の氷柱→天然の氷柱」となっていたら、「自然って大したことないな……」という感想になってしまうからだし、「天然の氷柱→人工の氷柱」の順番で見たとしても、気をしっかり持っていないと、ついつい、「自然はつまらない、人間ってすごい」などという傲慢な思念に意識を支配されてしまう。
そして今回、新しいレンズを導入した。
話せば長くなるが、約20年前に作った住友銀行のカードが部屋の片隅で発見され、念のためATMに差してみたら……という経緯でレンズを手にした。
シグマの150mm~600mmのレンズなのだが、10万円しなかった。レンズの性能を考えれば軽いレンズだが、見た目の極まっている感は隠しようがない。
想像してほしい。気軽なお出かけと思って集合場所に来たのは、こんなごついレンズを携帯しているオッサンだったら……どんなにのんびり屋さんでも急用を思い出すに違いない。
手持ちでじゅうぶん撮影可能なのだが、注意して扱わないと手首を傷めそうである。
撮影に負荷がかかりはしたが、導入の効果は抜群で、川の向こうにある氷柱の泡のひとつひとつも捉えることができ、なぜもっと早く買っておかなかったのかと激しく後悔している。一般的に600mmのレンズは、鳥か航空ショーなどを撮りたい人のためのものかもしれないが、わたしのように、何でも拡大したいという性癖の持ち主なら、風景写真でも多用することになるだろう。
レンズを購入したことを正当化するために少々お付き合いいただきたい。
これは川を隔てた向こう岸を、105mmで撮った写真。
川面すれすれのつららを600mmで撮った。これはトリミングしていない写真。
この時点でも、こんなに近くまで!と思うのだが(思っていない方は思っていただきたい)、さらに等倍でトリミングすると……。
まるで顕微鏡のごとくである。
水に接するとやはり溶けてしまうのだなあ~と思ったが、そんなことは写真を見るまでもなくわかることなのかもしれない。
大自然……と思ったかもしれないが、こちらも人工であり、褒めたたえないと気が済まないという場合は、「人類の叡智の結晶」のような言い方が適切かもしれない。
こうやってアップで見ると、まっすぐではないことがわかる。
寄っていって手の平でシャーっとやりたい感じがする。
そういう性癖の方のために、特別にハイヒール状の氷柱も用意しております。
中央の氷柱は完全犯罪などに使われる感じの尖り方である。左の方も地表についてしまって丸くなってしまったが、昔はブイブイ言わしてたんやろな……。
地表に達した瞬間の氷柱は先端が尖っているが、達したあともずっと水が流れてくると、柱のようになるということなのだろう。
どことなく不潔感の漂う氷柱である。
日が昇るとともに、どんどん溶けていくのがわかる。なので行くとしたらやはり朝早めがよいと思う。
人工氷柱の仕組みがよくわかるゾーンもこっそり用意
自然の驚異を感じたいと思ったのに、人工物の雄大さに感激してしまった……と打ちのめされながら、帰りのバスに乗ろうとしたが、何やら川下の方にもうひとつ氷柱がある模様。
この氷柱もまた人工の氷柱で、これがほぼ全景なのでかなり小規模だが、それを補って余りあるほど扇情的である。わざわざ枯木を持ってきて氷柱を形成させているのである。
そして、近くまで寄り、触ることが可能。
この氷柱には寄れるので、スマートフォンしかお持ちでない方も、ばっちりコーティングされた氷柱の写真が撮れる。
こちらの氷柱は女体を想像させる。
これはジュンサイを想起させる。大きなお世話かもしれないが、光合成とかそのへんは大丈夫なんだろうか。
急坂の上には、きっと氷柱のジェネレーターがあるのではないかと思って上ってみたら、案の定である。
思ったより水の量は少ない。そして、霧状に水を出すほうがよいようである。
近くにはボロボロのボートが置いてあっていい味。
まわりには水撒きをしたときならではの形状の不思議な形状の氷たち。
湧水が氷柱になる場合は、偶然が重ならないとここまで複雑な図形にはならないのだろう。天然の氷柱が人工に勝つのは難しい。
人工の氷柱の方が天然の氷柱よりもすぐれていることに、人類の一員として喜ぶべきだと思うのだが、なぜかうつむき加減になってバスに乗って西武秩父駅に向かった。このあと、さらなる衝撃を受けることになることを予感してはいなかった。
実は本命かもしれない「あしがくぼの氷柱」
早めに出発すれば、午前中に西武秩父駅に戻ってくることができるのだが、せっかくと思い、2014年からはじまって最近話題になっているらしい人工の氷柱、「あしがくぼの氷柱」も見て帰ることにした。
池袋駅でも冬の西武はあしがくぼと心中するくらいの推し方であるが、モデルの女の人が引き立ちすぎていて、本末転倒のように思うかもしれない。しかし、行く人はみなこのような写真をInstagramに載せたりすることを考えると、地味ながら活用イメージがわかりやすく、稼げる広告だと思う。
こちらは西武秩父駅から西武秩父線で二駅の芦ヶ久保駅から歩いて10分というアクセス良好な場所にある。さすが人工、「氷柱の方から来い」を地でいく設計である。
芦ヶ久保駅を降りると、休業中のそば屋に車少なめの駐車場。繁忙期なのに大丈夫なのかと思ったが、この下の道の駅にすべてのリソースを集結させているようなので心配無用である。
斜面に家が建っているのを見ると興奮するタイプである。
駅から順路が指定されていて、その道中も、木を細かく切ったものを詰めていて、天然がいいとは言わせないという迫力が感じられる。
また、氷柱の紹介も潔い。
見栄えのする氷柱を作ろうという強い意思が感じられてすばらしい。
こちらの入場料は300円。三十槌と同じく、名目が漢字6文字くらいだったと思う。
中に入ると、富士浅間神社の鳥居がある。
もちろん飾りではなくて、この先の神社の第一の鳥居なのだが、冬季は氷柱制作のため、このルートからは神社には行けないようである。
入口から一面が氷で、すばらしい迫力である。
ここの氷柱は触ることを推奨しているところもあるのだが、「さわれる氷柱」と言えばいいところを、POP体で「おさわり氷柱」と表現していて、その無自覚な風俗感に感動した。
この日の前日に雪が少し降ったこともあり、得体の知れなさに拍車がかかっている。
奥に行くと、記念写真に最適なスポットがあるのだが、記念写真に興味がないため、黙々と撮影させていただいた。
これは笹の葉だと思うのだが、ジュンサイ度が極まっていて感動した。
人工だけあって、昼間は日当たりがよく、生き生きとした氷柱が撮れる。
もう人工の氷柱でないと見た気がしないという気分。
また、丘を登っていけば、展望ゾーンに行くことができる。
スケール感をお伝えできていれば幸甚である。
電車といっしょに撮れるようにもなっていて、電車が通っていないときは「ここに電車が通ったらめっちゃいい絵になるのでは?」と期待してしまったのだが……。
氷を蹴散らすくらいの勢いで来てもらえないと満足できないなーという感想を抱かざるを得なかったのだが、運行の妨げになるものを置くわけにはいかず、これが精いっぱいのサービスで、ありがたいと思うべきである。
この「あしがくぼの氷柱」は、三十槌の人工氷柱よりもさらに一歩進め、氷柱を美しく見せるために木を伐採していることが見てとれる。
ここが山との境界線。わかりやすい。
線路を挟んで反対側では山肌に海苔のように太陽光発電装置が張り付いている。自分が山だったら、冬だけ氷柱ゾーンにされるより太陽光発電に使われた方がいいかな……遠くから見たらハゲてない感じに見えるところがいいから……。
「木を横に置いておくとニュラ~となってかっこいい」という知見が得られた。
「こんなん絶対天然の氷柱なら不可能やろ」という氷のまとわりつき方をしているところを見かけて観察するのも一興である。
スプリンクラーを発見。自らも氷に囲まれながらも獅子奮迅の活躍であります。
冬の絶景を堪能した~と思って帰りの特急に乗り、池袋駅に着いたのが16時。思ったよりもずいぶん楽に行けた。北国へ行けばよりダイナミックな風景を堪能できるのだろうけれど、首都圏で思い立ってすぐ行けて、帰りに池袋で中華を食べて帰る……というのができるところがありがたい。
もしあなたが天然の氷柱にこだわらないのであれば、アクセスも容易なので、あしがくぼの氷柱だけを見て帰ってもいいかもしれない。もし三十槌の氷柱とセットで見るなら、必ず三十槌の氷柱を先に見るようにすべきである。あしがくぼの氷柱を見てから三十槌の氷柱を見て、「やっぱり天然がいいね~」と言える人がいたとしたら、おそらく天才である。
自然のちっぽけさ、人類の叡智について実感できてたいへん有意義な時間を過ごすことができた。 莫大な想像力を消費するため、日帰りでも数日旅行したときのような満足感が得られるのだが、ロールシャッハテストでいろいろ思いつきすぎてしんどくなるタイプの人は「これはただの氷だから」と自分に言い聞かせながら見ると大丈夫なのかもしれない。
なお、ここまで書いて言うべきことではないかもしれないが、当て字みたいなのが大嫌いなので、「氷柱=つらら」を書き続けるのがつらかった。