ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

なぜ石立鉄男先生はわかめの出身を聞いたのか

「わかめラーメン」について、35年以上疑問に思っていた案件が解決した(ような気がする)ので共有させていただきたい。
 
わかめラーメン。言わずと知れたエースコック社のロングセラー商品である。

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今も販売され、ラベルにはsince 1983と誇らしげに記してある。乾燥重量にして5グラムにも満たないわかめが健康にもたらす効果はいかほどかと思わなくもないが、安価な具を加えるだけで、当時不健康な食べ物の象徴的存在だったインスタントラーメンのイメージを変えたのはアイデアの勝利と言わざるをえない。
発売から35年を経ているが、有機丸大豆を使ったり、食物繊維を表示したり、健康をイメージさせる施策に余念がないし、健康に無頓着な人にも、優しい味のインスタントラーメンとして一定の支持がある。
本題とは話がそれるが、ゴマを増量してさらにゴマ油を増量するとさらに天国に近づくのでお試しいただきたい。
 

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実際のわかめラーメンは、ビジュアル的においしいと思えるかどうかはさておき、ほぼわかめに覆われている。これも当時としてはエポックメイキングな出来事であった。当時のインスタント麺は、薬味のネギがまばらに浮いていて、紙のような薄さの真円のチャーシューが浮いているのが精一杯。その状況下で、標準的なカップラーメンの価格帯で、「具が多すぎて麺が見えない」という状態を作りだしてしまったのだ。
 
わかめラーメンがヒットした理由は商品のコンセプト以外にもうひとつある。40代以上の人は忘れられないと思うけれども、あの石立鉄男先生が出演するCMである。のちに柳沢慎吾先生により再演されたことから、エースコック社もあのCMが傑作であったと評価していることがわかる。
 
まず軽快な歌に感動する。聞いているだけで元気になりそうである。主演の石立鉄男先生は、当時ごはんをおいしそうに食べるタレントのおそらくナンバーワンだっただろうし、レオタード姿の女性がわかめ状のテープを振り回すというややシュールな演出。わずか15秒の間に、わかめに対する圧倒的にポジティブな情報が詰めこまれていて、わかめにさしたる興味を持たない子供(including わたし)もわかめに興味を持たざるを得なかった。わかめラーメンのCMは、その圧倒的な存在感ゆえに、エースコック社のカップ麺のみならず、わかめ全体について市場にポジティブな評価を与えたと推測するが、それはともかく、最後のセリフがまったく意味不明だった。
 
「おまえはどこのわかめじゃ?」
 
当時の小学生が食卓にわかめが登場するたびに発し、おそらく親はそのたびわかめパッケージに書いてある原産地を読みあげることでその都度対処していたと思われるが、面倒だと思っていたに違いない。そもそも、石立鉄男先生が、わかめラーメンのわかめに人類の言葉でよびかけているのが謎めいている。人間の言葉を解するのは、せいぜい哺乳類の一部であって、「花に話しかけると花がしおれない」というのはただの妄説である。そもそも花が枯れることはライフサイクルの次のステージに移ることでもあるから、万が一、話しかけるという行為が植物に対してポジティブな効果をもたらすことがあったとしても、花が長く咲き続けるという形ではないはずであるし、植物よりもいっそう原始的な藻類であるわかめに話しかけることにいかほどの意味があるのだろうか……。
 
もしかして、「おまえはどこのわかめじゃ?」と聞いているカップはわかめに向けられたものではなく、視聴者に向けられたメッセージかもしれない。たとえば米が魚沼産であったりするように、ブランド感のある産地のものを使っていることをほのめかしているのかもしれない。わたしはしばらくその説を採っていたのだが、実際にわかめラーメンを買ってみても、わかめの産地はどこにも書いていなかったし、そもそも書く義務もないので、話は振り出しに戻った。ここでわたしは20年ほど立ち止まっていたのであった……。
 
このように失意のどん底で毎日を過ごしていたのだが、ある日、いつものようにわかめラーメンのCMを閲覧していたら、ふと、なぜ石立鉄男先生が出ているのだろうという疑問が浮かんできた。原田大二郎先生でもよかったのではないか。コミカルでありつつも男前で、また別のCMになっただろうけれど、すてきなCMができたはずである。あのCMに石立鉄男先生があまりにもマッチしていたため、疑問にすら思ったことはなかったのである。考えながらCMをリピート再生していると、レオタードの女性が振っているわかめ状のリボンがだんだん石田鉄男先生のモジャモジャした髪とオーバーラップして、なるほど、こんな単純なことになぜ気づかなかったのだろうと思った。
CMのディレクターは、おそらく、単においしそうに食べるタレントとして起用されたのではなく、そのヘアスタイルがわかめをイメージさせるから起用されたのである。平常心で見ていればすぐにわかるはずのことに35年経って気づくとは……。おそらく「ひじきラーメン」だったらすぐ気づいたのだろうと思う。
 
そして、わかめ=石立鉄男先生のつながりを発見したら、最後のセリフの謎も一瞬で解決した。
つまり、石立鉄男先生はこのCMにおいてわかめの化身を演じているのであり、ラーメンの中にいるわかめに同じわかめとして話しかけているのである。人間が出ていれば人間の役をしているに違いないという、非常につまらない思いこみのため、なかなか気づくことができなかった。私生活ではケンカが強くて気が短いことで知られていた石立鉄男先生が、わかめ番長を演じ、「お前、何中出身やねん」と聞いているのとまったく同じ感覚で「おまえはどこのわかめじゃ?」と聞いているのである。
 
墓場まで持っていくことになると思っていた謎が解け(たような気がし)て自分でも驚いてしまったが、これで安心してわかめラーメンをいただくことができてよかったと思ったし、わかめラーメンが好きであのCMのセリフの謎が解けなかった人も、これからは穏やかな気持ちでわかめラーメンと向き合ってほしい。