ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

好きなものについて書くとき、広告と思われないために、少しけなさなければいけないのが面倒

まれに特定の商品の広告記事の依頼をいただくことがあるのだが、いらんことを書いてしまいそうなので、心から素晴らしいと思うものについて依頼が来た場合のみに限って受けている。また、友だちを作ってしまうと、金銭が絡まなくても、つきあいであれこれ紹介しないと気まずい感じになるから、友だちもあまり作らないことにしている。言論の自由について語りながら、つきあいであれこれ紹介している人などを見ると、言論の自由は、実際のところ、そういうところからスポイルされるのだと思うのだが、その話はまた日を改める。

わたしが、「自分の好きでないものの広告記事は書かない」というポリシーを持っていることを知らない人がほとんどだろう。なぜなら、わたしのことを知らない人がほとんどだからであるが、以前、何かについて肯定的に言及したら、「なんだ、宣伝か」というコメントを頂戴して、大変がっかりしたことがあった。その記事は広告記事ではなかったのだけれど、その粗末なコメントからわたしが学んだのは、「何かについて肯定的に言及すると、裏があると思われ、なかなか信用してもらえない」ということである。それからわたしは、すばらしいと思うものを紹介するとき、意識的に貶めることによって、しがらみなしでの発言であることを示すようになってしまった。

たとえば、わたしの脳内に浮かんだテキストがこうだった場合……

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あまりにも有名な辛ラーメンに比べて、別次元にまで強化改良されたはずの「辛ラーメンブラック」は、残念ながらあまり知られていない。


ノーマル型の辛ラーメンとの違いは、かやくの量が多い点、牛骨スープがついている点である。特筆すべきなのは牛骨スープで、ノーマル版の辛ラーメンとの価格差の100円のほとんどは、この濃い牛骨スープの原価なのではないか……と思ってしまうほどの味わい深さなのである。もともと他に替えがたい味でお馴染みの辛ラーメンに牛骨スープが加わるとどうなるかというと、コクが出ると同時に、辛さがまろやかにもなる。あの辛いラーメンをまろやかにするほどのうまみがどれくらい強烈かわかるだろうか……。


韓国料理屋でインスタントラーメンの麺を入れる店があるが、辛ラーメンブラックなら、そのままキムチでも盛ればそこらへんのラーメンよりおいしくなるはずで、インスタントラーメン発祥の国の国民としては、これを超えるラーメンが日本から出ていないことを残念に思う。

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以上を読んで、「なんだ、宣伝か」と思わなかった人も、少なくとも、「なんだ、アフィリエイトか」と思うのである。
なお、上記のアフィリエイトリンクのように見えるものは純粋なjpgである。



「なんだ、宣伝か」と思われるのは本意ではないので、加筆修正を重ねていくと、最終的な仕上がりイメージはこんな感じである。

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日本でもよく売れている辛ラーメンだが、日韓関係が気まずい、というか、日本人の8割近くが韓国を信頼できないとしている状況の中、「辛ラーメンが好き」と言いだしにくい空気を感じる。
もともとメーカーの農心が、日本国民統合の象徴であるところのかっぱえびせんの偽物をしれっと韓国で75億袋も売り、おなじく韓国国民統合の象徴としていたりするところが許せないと思う人もいるかもしれないし、何度か起きている異物混入問題を思い出して尻ごみする人もいるかもしれない。


「辛ラーメンが好き」と言いづらいのだから、いわんや、辛ラーメンの強化改良版である「辛ラーメンブラック」をや、である。そもそも、見た目が辛ラーメンより邪悪だし、「ブラック」という名前をつけておいしくなると思う感性が謎。辛ラーメンの普及版と思う人もいるかもしれない。デラックスという便利な英語があるというのに……色にこだわるならゴールドの方がふさわしいはずだ。


しかし、「辛ラーメンブラック」は、一度口にしてしまうと家に常備しておかないと不安になるほどのおいしさであり、ここまで味わい深いと、インスタントラーメンを食べているというみじめな気分にもなることがない。もともと辛ラーメンのリピート率が他のインスタント麺のリピート率を上回っているという調査結果もあるようだが、一度食べたら中毒のようになってしまう度合いはブラックの方が高い。圧倒的おすすめのインスタント麺である。


……といった具合である。



とくにインターネット界隈で不評なものについては、嫌いという気持ちにわざわざ寄り添わなくてはならず、非常に面倒である。そして、さらに面倒なことに、貶しているうちになんだか筆がのってきて、とくに強調したいと思っていなかったことまでいろいろ書いてしまって自己嫌悪になってしまう。何のために文章を書いているのか自分でもわからなくなる、という境地に達することすらあるのだった。

つまり、わたしは、「なんだ、宣伝か」などと言ってくる人および、「なんだ、宣伝か」的なコンテンツを作っている人のために、いちいち文章をこねくり回す刑に処せられているのである。大変かわいそうである。

そして、それはわたしだけでなく、企業も普通に使う手法でもある。商品名をひたすら連呼するような広告は押しつけがましいと思われがちなので、あえて広告内で、売っているものを貶め、広告のメッセージを受け入れやすくする……という手法である。


銀のさら公式CM【Experiment篇(60秒)】


なお、商品名を連呼する広告でいま一番インパクトがあるのが、渋谷に行くと高い確率で出会ってしまう、「バニラ」の広告。
渋谷に行くときには悪趣味なものにまみれる覚悟をして行っているので、やめてほしいとは言わないが、いちど聞いてしまうとそのことばかり考えてしまってよくない。


Singing truck in Tokyo

お手すきの方はこの投稿の、"VANILLA VANILLA 高収入 (Great Income)"などと律儀に歌詞を翻訳しているところも読んでおいていただければと思う。


すっかり脱線してしまったが、嘘をつくより本当のことを伝えるために労力がかかってしまうという状況について、あまり納得できていない。

嘘つきが多すぎるから、真実を語るためにテクニックが要求されるのだが、新しい嘘つきは、真実を語るテクニックを利用し、真実のように嘘を語るので、まるでいたちごっこである。「いたちごっこ」とはどんな遊びかは知らないけれど、そういう不毛な遊びなのだろう。



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