ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

エアコンのフィルター掃除の重要性を理解するのに30年かかった話

実家を出て30年以上経つが、きょうまでエアコンのフィルターの掃除をしたことがなかった。エアコンのフィルターを掃除すると効果が段違いであるという話はインターネットの黎明期から何度も目にしてきたのだが、今でいう「秒で消える唐揚げ」などと同様だと考えていたのである。この「秒で」の長さは、定義では60秒を超えることはないはずだ。60「秒で消える」唐揚げがあったとしたら「分で消える唐揚げ」と呼ばれるだろう。では20秒はどうだろう。1分以下ではあるものの、「秒で」と言ったときに想起するイメージからは遠い。それなら、「数十秒で消える唐揚げ」と呼ぶ方がふさわしいと感じるからだろう。「秒で消える唐揚げ」における「秒」とは、最長でも9秒ではないかと思う。そして、「秒で消える唐揚げ」が実際に9秒以内に消えるかというと、そこも非常に怪しい。まず「秒で消える唐揚げ」は、揚がって盛りつけられた直後からカウントアップが始まるが、2秒程度でそのうちひとつを皿から箸で取って口に入れたとして、熱々の唐揚げを5秒で完全に飲みこまない限り2個目の唐揚げを口に運びきることは不可能で、つまり、供されて各々が「消」せる個数はせいぜい1個。「秒で消える唐揚げ」が仮に実在したとしても、味がよいということではなく、単に作った個数が少ないか大家族であることを意味するにすぎず、そうでないなら「秒で消える唐揚げ」は誇張だろう……けれども、ここで唐揚げの話がしたいのではなかった。

 

エアコンのフィルターを掃除するとエアをコンする効率が飛躍的にあがるという話は、せいぜい設定室温に達する時間が数分程度早くなる程度のことだと思っていて、鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスと思って同じエアコンを掃除もせず10年以上使ってきた。掃除するには及ばないと高を括っていたのだった。エアコンのフィルター掃除の話はnot for meであると聞き捨て続けるうちに、エアコンは徐々にアンコントローラブルな領域に達していた。しかし、わたしはその原因にフィルターの関与度は低いと認識していた。ネンネじゃあるまいし、たかだかホコリが詰まっている程度のことで空気の流れが悪くなることはないと思っていたのである。きのうまでの状態を説明すると、室温を20度にするために、設定室温を26度にして風量も強にしていた。徐々にエアコンの性能が落ちていたので、そういうものかもしれないと諦めていたのである。たとえばデモの参加者について、主催者側の発表と警察の発表には数倍の開きがあることは常で、もし同様だと、設定室温を26度にしても室温は10度を切ることになるが、そこまでの開きではないため、経年劣化における機能の低下であり、受忍限度内だと自分に言い聞かせていたのである。

 

土曜の朝。きょうは休みだし、そろそろブログに何か書かないとアイデンティティの危機だと思いつつ、ブログを書くという行為以外に逃避したいとも思いながらベッドに横になっていた。高温の強風をオーダーしているにもかかわらずあまり暖かくないそよ風に包まれていたら、もしかして、エアコンのフィルター掃除が必要なのかもという気がしてきた。パネルを開けて見て気持ち悪かったらそっと閉じればいいだけだよねと思ってエアコンの電源を切ってパネルを開けた。想像していたよりも内部構造は簡単で、フィルターの脱着も簡単にできそうだった。するりとフィルターを取り出して眺めてみたが、たしかに10年貯めただけあってすごいホコリの量だった。とはいえ、わたしがふだん装着しているマスクと同程度の通気性はあるようにも見えた。そのまま付け直すのももったいないと思ったので掃除しようと思い、よき方法を検索してみると、エクストリームな状況のときは重曹がいいというような意味のことが書いてあって、これがエクストリームでなければ何がエクストリームなのかと思ったが、以前買って部屋のどこかにある重曹を探すのが面倒なのでぬるま湯で洗って、タオルで拭いてセットし直して電源を入れた。
すると、たちまち熱風が吹き出して、わたしの部屋に春がやってきてそのあとすぐに夏もやってきた。いつもの設定だとエアコンが効きすぎて夏になってしまうのだ。温度設定を下げて風量を自動にした。つまり、暖かくならないというだけでなく、莫大な電気代がかかっていたのである。そもそも、きのうまでのわたしはこのあとやってくる大寒波に対してわたしはどう対処するつもりだったのだろうか……。

 

暖かくて静かな部屋の中で、この30年で失ってきたものに思いを馳せたが、失ったものが多すぎて、数えているうちに週末が終わってしまいそうだ。

エアコンのフィルターを掃除することと同じくらい効果があるのに今まで見過ごしてきた案件がまだあるのかもしれない。そしてその宝のような案件たちを、インターネットの情報だから大げさに言っているのだろうと思って無視しているに違いないのである。大げさと思っても、悪くないと思ったら試してみるようにしよう。「秒でなくなる唐揚げ」も実在するのかもしれないし。

 

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