ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

「白身魚のフライ」という変態性満載のごちそうを見つめなおす

いまから白身魚のフライが好きという話をしたいし、エビやアジのフライにしか興味がない方はこっち(どっち?)に来てほしい。ただ白身魚のフライについての意外な情報のようなものはこれを読み進めたところでどこにも書いていないので申し訳ない……。
 

「白身魚」という名の魚はいない

「雑草という草はありません」。昭和天皇のお言葉である。ナマズの研究でおなじみの秋篠宮皇嗣殿下におかせられましては「白身魚という名の魚はありません」と仰せられたかどうかは把握していないが、秋篠宮皇嗣殿下は白身魚と名付けられた料理を召しあがったことはないに違いなく(念のため検索はしてみた)、そもそも白身魚という概念をご存じないかもしれない。ナマズは白身でおいしいのだが、白身魚のフライはスケトウダラ・ナイルパーチ・ホキ・パンガシウス(名前が怖くない順に書いたら受け入れてもらいやすいと思って……)などといろいろである。お弁当屋さんでは100円台で売られていることから推測して、少なくともフグやヒラメが使われていないことはたしかである。たとえば鮭のフライを「赤身魚のフライ」とは言わないし、アジのフライを「青魚のフライ」と言うこともない。出自を隠したいと思ったときに「白身魚」というふんわりした呼び方が使われるのである。たしかに、味のよしあしは別として、「パンガシウスフライのタルタルソース」などという料理が供されるようなことがあれば、ムムッ……もしかして帰れという意味なのか……などと考えこんでしまうことだろう。
 

正体不明の魚の身を紡錘形にするセンスがすばらしい

一様に香ばしい衣に包まれた謎の魚たちは食べ物であると同時に工業製品のようでもある(注:おいしくないとかダメだとかそういうニュアンスは特にない)が、単純に生産効率だけを考えれば、四角形や二等辺三角形にすれば輸送用のダンボールを白身魚のフライで満たすことができるはずで、実際、マクドナルドのフィレオフィッシュの白身魚のフライは正方形。ケンタッキーフライドチキンでときどき姿を現して姿を消す幻の魚ことフィッシュフライも、長方形もしくは台形で、それがかつて魚であったことを彷彿とさせる要素は何もない。
いっぽう、海の幸が得意ではない定食屋や弁当屋で扱っている「白身魚のフライ」と呼ばれるフライの多くは紡錘形である。白身魚は任意の形に加工できるし、単価が安いので運送コストは少しでも安くしたいはずだ。それなのにあえて魚を思わせる紡錘形にしてある。たとえばこれがホキだとしたら1匹あたり何個も作れるはずで、あえて謎の小魚を作っていることになる。経済的合理性をあえて捨てて、想像上の魚を作るという夢を選んだのだとわたしは考える。
 

紡錘形の白身魚フライの素晴らしいたたずまい

ここからはわたしが通り過ぎていった白身魚の紡錘形のフライの思い出の写真たちのコーナー。
 

f:id:kokorosha:20210617072727j:plain

これは団地の中にあるそば屋の定食の一部として供された白身魚のフライ。そばがメインの店だし850円のランチなので、お店でさばいたアジのフライなどは期待していないし、むしろこれ目当てでよく頼んでいる。

f:id:kokorosha:20210617072721j:plain

ひとり席がないから早い時間に行ってさっと食べて帰っているが、本当は毎日ここで食べたいくらいだ。
 

f:id:kokorosha:20210617072739j:plain

こちらはお弁当屋さんでオプションになっている白身魚。1つ120円である。安いので2個お願いすることが多い。このお弁当屋さんはすごいボリュームでたとえばサイコロステーキ定食を頼んだらザ・工業製品みたいなのの焼いたんが出てくるけれど、そんなところも含めて好きな店で、いつも感謝している。
 
全国規模の店だとCoCo壱番屋でフィッシュカレーを頼むと出てくる。

f:id:kokorosha:20210617072752j:plain

大きいのがひとつくるとイメージしていたがふたつ。ふたつ並んでいるだけで兄弟かなと思ってしまうが同じ魚の別の部位である可能性の方がはるかに高い。いままで紹介したものと比べるとボリュームがかなり小さい。その分かわいらしくもあり、手作りのような雰囲気さえ漂わせているが、工業製品のような感じにしてほしい人にとっては物足りないかもしれない。
 

f:id:kokorosha:20210617072746j:plain

上記のお弁当屋で買ったものを食べながらふと見たら生前の姿がちらりと見えた。想像より原型をとどめていて驚いた。キミはどこの海から来たのかな……。すごい深海からお越しくださっている可能性もあって多少申し訳ない気分もある。
 

白身魚のフライは、「究極フレンドリーな魚状のごちそう」である

正体不明の一匹の魚が分割され、新しい魚の形になる。死してもなお、生前の姿とは異なる形で魚を表現しているというかさせられている白身魚のフライ……これは新しい魚の姿であり、人類にとっては新種の生き物のような存在。人類にとっては邪魔者でしかなかったうろこや骨はなく、油で揚げられて豚も裸足で逃げだす(蹄があるから靴を履いているようなものかもしれないが)カロリーを身につけている。この紡錘形の仮想生物を愛さずにはおれない……。
 
などと気持ち悪いことを考えながら、今日も白身魚のフライをありがたくいただくのだった。