ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

「なぜ女性向けのプロダクトにはピンク色が多いのか」という怒りにも似た疑問について考える

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男のわりにはピンク色が好きだが、特に自分がジェンダー的なバイアスから自由に生きてきたなどと主張しようと思ってはいないことでおなじみのココロ社です。

女性向けに作られた製品が、考えなしに適当なピンク色にされているように思えることがあるし、インターネットでも定期的に話題になっている。最近では、「ダサピンク」問題と呼ぶ人もいる。たしかに家電量販店などの調理家電や美容家電のコーナーに行くとピンク色の家電が多いのは事実である。
これらの製品、とくに家電などは、中年男性がデザインの決定に深く関与しているというイメージが強いこともあってか、「どうせ女の人はピンクが好きなんでしょ」という傲慢な感覚のもとに作られたような気がしてしまうし、勢い余ってそこにジェンダーの問題を見出すこともあるかもしれない。
「男性向けにミントの香りのものが多い」というのも同じ問題といえるかもしれないが、この手の大雑把に作られているように見える製品の多くは、マーケティング的には実は正解であったりするのだから世の中はややこしい。


今回は「女性=ピンク色」問題について絞って考える。
この問題については、それが合理的だといえるいくつかの背景があるのだった。

実際のところ、ピンク色は女性に人気の色である

女性にピンク色が人気であることを疑う余地はない。「女性 好きな色 アンケート」などで検索してみるといい。ピンクについで人気なのは黒や青で、こちらは性別が関係なく好かれている色であり、女性しか挙げない色と考えると、圧倒的な人気であると考えてよい。
自分や自分のまわりにピンク色が好きな人が少ないと、お仕着せの色であるかのように思うかもしれないが、それはただ単に同じ人種で固まっているというだけのこと。わたしのまわりにEXILEのファンは一人もいないが、それはわたしがEXILEが好きな人と人種が違うことを意味しているだけで、EXILEのファンが絶滅したのではない。
「女だからってピンクが好きだと思うなよ!」という主張をする人が一定数いて、その主張自体は正しい。ただ、全員ではないにせよ、女性に人気のある色であることもたしかなのである。ピンク色以外の色を好きな人を考慮して、オレンジとレッドとパープルなどを作ってそれぞれの色について生産管理をし、その甲斐なく各色に微妙な在庫を抱えるくらいなら、「とりあえずピンク一色で。『ピンク=女』という価値観が嫌いな女性は、そのはっきりした主張からすると、白か黒が好きなのではないか」などと大雑把に考えて、白と黒とピンクを作って、ピンクの在庫のみを抱える方が、楽だし収益もあがるのである。

女の人が生まれつきピンク色が好きなのかどうかについては、男が生まれつき黒が好きなのかどうなのかの話と同様、ここではさほど重要ではない。仮にそれが、幼児期に刷りこまれた嗜好だったとしても「こんな悪趣味な色のお召し物を主体的に身に着けてしまうほど男性社会に飼いならされてしまうなんて……かわいそうに!」などと憐れむのはお門違いなのであった。
いっぽう、嫌いな色として上位に挙がるのもピンク色なので、「こんなにもわたしが嫌いなピンク色が人気だなんて嘘に決まっている」と思ってしまう人がいるのも無理はない。

ピンク色は背景に使いやすい便利な色である

こんな色遣いのスマートフォンのアプリがあったら制作者の感性を疑うだろう。
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読みにくいと感じたに違いないが、パソコンやスマートフォンなど、テキストを読ませるものの場合、背景に使えるのは薄い色で、ボタンなど操作ができる部分は濃い色にするという暗黙のルールがあり、それを破るとこのように使う気の失せるデザインになってしまうのだった。
また、キティちゃんなどのキャラクターの画像を検索してみると、背景にピンク色がよく使われていることがわかるだろう。背景が赤や緑だったらキティちゃんの存在が消えてしまう。
色の濃さを考慮に入れなかったとしても人気の色であるピンクは、さらに薄い色というジャンルで絞れば、唯一といっていいほどの人気で、むしろ背景をピンク色にしない手はないと言ってもいいほどだ。

家電のデザインにおいても、多くの部屋の壁紙と合わせて白にするのが無難といえるが、真っ白にしてしまうと単調な印象を与えるし、かといってアクセントに赤や青を入れてしまうと目立ちすぎてしまうので、無難にピンクにしておきますか、と考えるのも無理はない。濃い色を使えないシーンで使える便利な色がピンク色なのである。


デザイン性が求められない製品には適当な色がついている

たとえばカバンが好みのデザインでなければ買わない人はほとんどだろうけれど、かかとの角質を削るヤスリが好みのデザインでないからといって買うのをやめる人は少ない。ピンク色のバッグを持っていない人も、かかとの角質を削るヤスリのザラザラした面はピンク色である確率は高いし、ここがピンクだからかかとの角質を削るのをやめます、わたしかかとはカサカサでいいの、その方が冬らしくて楽しいじゃないの、などと言う女の人はいないだろう。かかとの角質について考えるのが面倒だという理由でかかとの角質を削らない人はいるだろうけれど。
いっぽう、かかとの角質を削るヤスリを有名なデザイナーに作ってもらっても、大して売れないというのも事実。かかとの角質を削るヤスリは持ちやすさや、仕上がりがツルツルになることが求められるのだ。色を差別化のポイントにしても仕方のないところで、「とりあえずピンク」にしても、それが原因で売り上げが落ちることはないのである。
ある製品がピンク色であることが気になるピンク色嫌いの女の人は、その製品にデザイン性を求めているから不快なのであって、「家電売り場でドライヤーを見に行ったらピンク色ばかりで腹が立った」と思いながら、ピンク色のかかとを削るヤスリで角質を削って足をピカピカにするのであるし、同様に、「掃除機売り場に行ったらピンク色ばかりで腹が立った」と思いながら、ピンク色のドライヤーで髪を乾かし、そのあとピンク色のかかとを削るヤスリで角質を削って足をピカピカにしたりする人もいるだろう。



ピンク色はとくにジェンダー的なイメージが強く、嫌いな人はその色に光の波長以上のものを見出しがちだ。「ピンク映画」のような言い方に象徴されるように、それは必ずしも的外れではないと思うのだけれど、ピンク色を好きな女の人は騙されているわけではないし、ピンク色は製品を作るうえで使いやすい色なのだった。


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埼玉にある世界最大級の地下放水路「首都圏外郭放水路」の地下神殿では、柱を御神体と思うしかないのだ。

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首都圏外郭放水路が作られたのは今から12年前。近辺の川の水があふれたとき、地下の水槽に流しこんで貯め、ポンプで江戸川に放水することで周辺の洪水被害を防ぐ、という仕組みである。
この放水路には東京ドーム10杯分の調整実績がある。10杯分が多いのか少ないのか感覚が麻痺してよくわからないけれど、わたしは気が弱く、東京ドームに喩えられたら反射的に巨大だと思うことにしているので、東京ドーム3杯分と言われても驚いてみせることが可能である。
近年、大雨・洪水の被害が増えてきているが、この放水路の管轄内の冠水がなくなり、被害を免れた規模は1兆4000億円にものぼる。
建設費は2300億円とのことだから、ペイするにもほどがある。ただ、税金といえば無駄遣いというイメージがメディアにより刷りこまれており、税金を無駄遣いしていないと少々がっかりしてしまう。無意識に、「無駄遣いしてこそ施設の巨大さが身にしみる」と期待しているのだと思う。


この放水路の中核をなす調圧水槽は、おそらく柱が大きいという理由から、勢い余って「東洋のパルテノン」と呼ばれることもある。
日本しか知らないのに東洋東洋と口にするのは昭和脳のなせるわざであるが、その話は別の機会にするとして、一般的に「東洋のパルテノン」というと、韓国の世界遺産である宗廟だし、日本においては、ブルーノ・タウトが伊勢神宮をそう呼んでおり、到底太刀打ちできる見込みがない。「地下神殿」がより一般的な愛称であるが、適切かと思う。

予約する場合は高度な計画性が要求される

地下神殿のなかは、ふだん見学をする場合、事前予約が必要。桂離宮のようである。
予約はここからできるのだけれど、予約を取るのは至難の業。1か月後のXデーに有休取得が確実にできる人のみに許されるので、難度はかなり高い。
ただ、毎年11月に予約なしで入れる日があることを銘記しておくと、行楽シーズンに手持無沙汰になったときに幸せになれる。季節の変わり目を越え、希死念慮が落ち着く時期であり、それを記念あるいは祈念して開催されているに違いないのだ。
放水路があるのは埼玉の春日部市。
大宮から東武野田線に乗ればよい……と思って駅に降りたが、いつの間にか、「東武アーバンパークライン」という名前に変わり果てていて、乗っていいのかどうなのか戸惑ってしまう。
このような路線名称の変更をすると叩かれるのが世の常だが、仮に自分が、あまりお金をかけずに沿線のイメージを変えてくれと言われたら、「では名前をアーバンパークラインなどとするのはどうでしょう」と言ってしまうと思うので、とても責める気にはなれない。
そんなややこしさを秘めたアーバンパークラインに揺られて30分で南桜井駅に到着。
見る者を緊張させる看板に出迎えられたのだった。
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駅からは、特別公開日の2日だけひっきりなしに運行されている150円のシャトルバスに乗ればすぐ着く。
なお、徒歩だと40分かかり、わたしも歩いたことがあるが、より強く、地下神殿に辿り着いたという実感が得られる。
ただ、「尿を限界まで我慢すると、放出したときに気持ちがいい」というのと実質的にしていることは変わらず、そのような盛り上げ方はいかがなものかという気持ちにもなったこともたしかであり、やはりバスがあるときは素直にバスに乗るのがよいのかもしれない。



行くのは二回目なので、前置きは抜きにして、さっそく地下の調圧水槽に入る。
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この階段をひたすら降りていくと目的の調圧水槽である。
―とはいえ、冒頭に写真を載せたので、読者のみなさまにおかれましては、まったく緊張感なく文に目を滑らせていらっしゃるに違いない。せっかくだから、ここで10年前に行ったときの写真を紹介させてもらいたい。
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当時は三洋電機のXactiという名のデジカメを愛用していた。当時としては、小さいサイズなのに高解像度の動画も撮れて使える有能なパートナーだったのだ。いまXactiを作っていたチームは株式会社ザクティとして新しいスタートを切っているのだけれど、あのときのような素晴らしい製品を待ち望んでいる。
白黒写真の時代は世界がモノクロームだったかのように錯覚してしまうが、解像度の低い時代の写真を見ると、繊細さを欠いた世界にいたかのように錯覚してしまう。
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「何もない」こととの戦い

パルテノンに話を戻すと、パルテノン神殿の内部にはかつて部屋があり、アテナ像が祭られていた。また、伊勢神宮にはご存知のように正殿の中に八咫鏡がある。見た人はほとんどいないというが、参拝者はそこにあることを確信しながら拝む。しかし、この地下神殿は神殿ではないので何もない。
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調圧水槽の中では交代でフルートを演奏していて、そこそこの人だかりができていたのだが、とくに神を思わせる音楽を演奏してはいなかった。集っていた人々は、やはりフルートを演奏するときに、美しい音を出すことと引き換えに下唇を前に突き出し、普段の顔と違うユーモラスな表情になるのを確認したいと思っていたのだろうか。
―そうではなくて、神も含めて何もないところであるから、ついそこにあるフルートに中心を見出し、引き寄せられてしまうのである。それもまた、何もなかったときの安定剤として悪い選択ではないのだけれど、わたしは柱をご神体と思って意識を集中させることでこの空虚さを乗り越えたのだった。
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よく見ると柱のひとつひとつに表情がある。つまり何もなくはない。
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コンクリートというと、すぐざらついたブロックを思い浮かべるのだが、丁寧に作ったコンクリートは光沢をたたえている。つまり何もなくはない。
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この薄暗い先に何かがあるので、何もなくはないのだ。
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今年、この柱は6回稼働して泥水に浸された。水かさを示す跡が、まるで水着の跡のようで煽情的である。
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気づいてもらえなかったら癪だから言うけれど、魚眼レンズで撮ると床と天井が同時に写ってダイナミックやろ……。


―このような鑑賞法では気がふれてしまうという人は、水が流れこんでくる第1立坑の先に何かがあると見なすのがよいだろう。階段が見えるが、全貌は明らかでなく、まるで伊勢神宮の内宮に参拝したときのような気分になる。
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ポンプ室の消火装置は赤く色づいて食べごろである

特別公開日は、特別にポンプ室の公開も行われている。
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「1号機」「3号機」などと書いてあるだけで背筋が伸びてしまう世の中に誰がしたのか……。
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ポンプのまわりを取り囲むようにチューリップ状の愛くるしい装置がついているが、これは消化装置。

そして、物理法則に果敢に抗い、ポンプでくみ上げた水は、外にある排水口から流れ出ていくのだった。
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わたしが近所に住んでいたら、台風の日などに絶対に様子を見に行ってしまっていると思うのだが、近所に住んでいる人はよく我慢しているなと思う。忍耐力townである。

外には、この施設を世に知らしめるための「龍Q館」という、『阿Q正伝』を思わせる施設があり、首都圏外郭放水路がどのようなものかが理解できるようになっている。
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最初にこの施設を訪れて、自分が今から見るものは何かを把握するのもよいかもしれない。
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大雨のとき以外は使われていない指令室。何とかマンの撮影などにも使われるらしい。
席と席の間が離れているのでネットサーフィンが可能である。

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なお、春日部市育ちの故・臼井儀人先生のサインは特別な場所に飾ってある。
この際、龍の字が違うというのは大した問題ではないのである。ケンカが弱そうな龍の字。


彩龍の川まつりでマジョリティに出会った

この特別公開は、いつの年からか、『彩龍の川まつり』に組みこまれていて、外では埼玉マジョリティによる芸能、略してマジョ芸が繰り広げられていた。
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日本と中国を足して二で割ったようなダンサブルな音楽に合わせて踊り、木製のノイズジェネレータをタイミングよく鳴らす。まさにわたしは日本人であり、この国に生まれてヨカッタ……と思う瞬間である。
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人が目の形に集合しており、その一致団結ぶりにスイミーを想起してしまう。
もしここに宇宙人が来襲しても、「地球人は事前調査よりも大きかった」と宇宙におけるtwitterに書き残すなどして侵略を諦めるに違いない。
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白色を基調にしたゆるキャラを見かけると、「汚れなどは大丈夫だろうか」と心配してしまう。



埼玉のポスターにはよく、「彩の国 さいたま」と書いてある。わたしはずっと「あやのくに さいたま」と呼んでいたが、「さいのくに さいたま」と読むのが正しい。なぜ「彩」なのかは、単純に音が同じだからという理由らしい。タモリ先生による「ださいたま」キャンペーンの向こうを張ってつけられた名称なのだが、埼玉県の人でタモリ許さない的なことを口にする人をあまり見ないので、彩の国の人たちは心が広いなぁといつも思う。

2014年5月に出会って深く感銘を受けた名盤たち

5月はいい音楽をたくさん発見できて幸せだった。

ダニエル・ジョンストンが女だったら……という一部の文化系男子の夢を80%叶えてくれる

The Space Lady's Greatest Hits

The Space Lady's Greatest Hits

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The Space Lady's Greatest Hits/The Space Lady(Nightschool)
ポピュラー音楽におけるアウトサイダーアートといえばDaniel Johnstonだけれど、女版みたいなのがいたらどれだけ日々の暮らしが豊かになるだろうと思っている人がいたとしたら、このSpace Ladyをおすすめする。人となりについて―35年間街角に立ち続けて珍妙ないでたちで演奏していたetc.―は他のサイトに譲ることにする。
その音楽性は、非音楽性も含めて素晴らしい。安いシンセをバックにポップなメロディー、しかしどうもウキウキできないのは、一貫してボーカルに強度のエコーがかかっているせいで、水中にいるような気分になる。
収録されているのはカバー曲が多いのだけれど、もはや他人の曲を演奏したとしてもうざったいほどのオリジナリティーを主張してくる。たとえば、"Born To Be Wild"のカバー。ドロドロに溶かしたカシオトーンのベースラインに過剰なエコー処理がされたボーカル。間奏もフィードバックノイズが気まぐれに挿入され、息つく暇もない。幾多のカバーの中でこれが最狂であると断言できる。
しかし、spaceとladyの相性は日本においてはあんまりよろしくないのかもしれない。spaceならgirlだろうということだろうけれど、人類がspaceにいるためにはそれなりの知力や危機管理能力が必要だと考えると、それなりに年齢を重ねていることは必須なのだろうけれど、そのあたりは多少は合理化されてほしいものであるし、このCDは圧倒的におすすめである。

ペラッペラで無力な80年代ギリシャの哀愁エレクトロ・パンク

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Anti...(EIRKTI)
80年代に活躍したギリシャのエレクトロ・パンクバンド「Anti...」の初期音源。
ジャケットやらライナーノーツにギリシャ語が所狭しと詰まっていて迫力があるし、英語やら日本語よりもなぜか高邁なことを言っているのではないかという気がしてしまうのだが、このあとのギリシャの運命を考えると、このメッセージが届くことはなかったのかもしれないし、そもそも音楽というのものが世の中を変えたりすることはないのかもしれない。
エレクトロでパンクというと、初期のDAFなど、ナチスを思わせる金属的で規則正しい音楽を想像するし、実際そんな感じかなと思って買ったら、実際はおそろしく薄っぺらくて貧乏臭く、期待以上の音だった。SNKの格闘ゲームのBGMのようなトラックの上にギリシャ語で哀愁漂うメロディーに乗って鼻声で怒鳴り散らしている……と書いたらこのアルバムの素晴らしさが伝わるだろうか。
500枚限定で、国内に何枚入っているのかは知らないけれど、見つけたら購入することを強く強くおすすめする。



Plaidの新譜以上でも以下でもないけど、当然うれしい

Reachy Prints [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / デジパック仕様 / 国内盤] (BRC419)

Reachy Prints [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / デジパック仕様 / 国内盤] (BRC419)

Reachy Prints / Plaid (Warp)
Plaidの3年ぶりの新譜で、おそらく他のサイトの紹介を見ても、それ以上の内容は書いていないと思うし、実際それ以上でも以下でもないのだけれど、定期的に作りこまれた電子音楽が聞けるというのは幸せなことだと思う。下のリンクの曲などは「前も同じようなの出してなかったっけ?」と思ってしまったのだけれど、それでもやっぱりPlaidの新譜はうれしいのだった。

Plaid - Hawkmoth - YouTube


Wolfgang Haffnerの新譜で豪華なミキサーが予想以上にいい仕事ぶりを発揮

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The Remixes / Wolfgang Haffner (Rockets&Ponies)
よく行く店のニューディスコのコーナーで入荷がなかったから渋々テクノでも買うか……と思っていろいろ試聴していたら名盤に出会った。それもそのはず、ジャズドラマーWolfgang Haffnerの新曲を、Ricardo Villalobos&Max Loderbauer、Nightwares On Waxが腕を奮ってリミックスしているではないか。前者は生々しいベースに冷徹なパーカッションが絡む、クールな逸品で、後者はタムをギッシリ詰めこまれたスモーキーな打ちこみジャズで、両方好きな人はあまりいないかもしれないけれど、どちらかは好きなはず。

2010年のおそらくマスターピースだったであろうデトロイトテクノ

Monorail

Monorail

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Monorail / Motor City Drum Ensemble (MCDE)
月に1回はデトロイトテクノ風の音楽を聴かないと具合が悪くなる病気を患っていて、最近すこぶる調子がよろしくないのだが、4年前に買っていたと思われるMotor City Drum Ensembleを含むコンピレーションを発見した。半年はこれでしのげるのではないかと思えるほど完成度の高いデトロイトテクノ。Orlando Voornがデトロイトテクノの豊饒さに耐えかねてミニマルテクノに逃げなかったら、こんなのをリリースしてくれていたに違いない……という感じの名盤。2枚組だけれどA面が素晴らしすぎて、おそらくB面以降を聞くことはないと思う。

姫路の博覧会跡の展望レストランは、宇宙的なデザインが可愛らしいだけでなく、回転もしてくれる

ぶらり姫路まで行ってきた。
姫路駅~手柄山中央公園については別途記事にするとして、今回は、姫路駅からちょっと歩いた博覧会跡―博覧会は50年ほど昔になるので「跡」という認識ももはやないと思うけれど―にある展望レストランの素晴らしさについてお話ししたいと思う。

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この展望レストラン「手柄ポート」は、50年前に博覧会の姫路館として建設され、終了後は展望レストランとして姫路の街を見守っている。
見守られていると思っている人はあまりいないかもしれないけれど、見守るというのはそういうことなのかもしれない。

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一度見たら忘れない、この宇宙的なデザインは、ロサンゼルス国際空港のレストランにそっくり、というか、そっくりを超えた意図が感じられ、かつてこの国もまたコピー天国であったことを思い起こさせてくれる。ただしロスアンゼルスと違ってこのレストランは回転するので、単なるコピーに終わらず創意工夫を凝らしているという点で戦後日本の発展と衰退を象徴している。


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ビームのような柱は完全に飾りの機能しか果たしていない。
もし姫路に宇宙人が来て、この不合理な放物線は何のためだと説明を求められたら、「あなたたちへの憧れの気持ちを表してみました!」と笑顔で言おうと思うが、それが最後の笑顔になるに違いない。
ひとりでも満員になったかのようなギリギリなエレベーターに乗って4階へ。


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約14分で360度回転すると書いてあったがどうにもキリがよろしくない。
50年前は15分で360度だったのだが、人類が多すぎるしその人類のお人柄が揃いも揃って難ありだから地球が小さくなってしまい、14分336度で一周になってしまったのかもしれない。もちろん地球が米粒のように小さくなっても360度は360度だし、人類のお人柄と地球の体積に相関関係がなかったとしても人には優しくしなければならない点について、就学中の方およびあたかも就学中であるかのような学習到達度である方に念を押させていただきたい。
それはともかく、姫路の街や、手柄山公園の各施設を飲み物を飲んだり、食べ物を食べたりしながら一望できるのである。


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わたしはここで、スポーツ大好き少年たちと、かれらを収容する施設を俯瞰した。ただしそれは物理的な意味での俯瞰にすぎず、むしろスポーツ大好き少年たちの魂が、休日にひとり展望台でナポリタンの大盛りを貪るオッサンを、ああはなりたくないと下から俯瞰していた可能性もある。


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なお、このナポリタン、メニューには「イタリアン」と書いてあった。ナポリ以外の人にとっては心外なのかもしれないが、そもそもナポリの人も「ナポリタン」に納得できるかどうか疑わしいところではある。


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この展望台のほとんどが回転部になっており、ごくわずかに残されている中央の静止ゾーンで店員さんは調理や会計を器用に済ませる。のんびりした雰囲気ではあるものの、常に回りが回っているのだから三半規管などが大丈夫なのか心配であるし、また、見知らぬご婦人の三半規管の様子を心配するほどわたしは心優しいのだとアピールしておきたい。


この日は朝から何も食べずに歩き回っていたのだけれど、この宇宙船の中の具が少なめの「イタリアン」で糖質を十二分に補給し、視力と生きる気力が回復した。


なお、この店、食べログでのスコアはたったの3点。この店だけ3点満点というわけではあるまい。これはこのレストランがサエないという意味ではなく、食べログの評価システムが万全とはいえないことを示す一つの例である。あるいは姫路っ子たちは、この展望レストランよりも心ときめくすばらしい店にこっそり通っているのかもしれず、それなら小さいフォントでいいからコメントを頂戴したいところである。

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2014年4月に出会って深く感銘を受けた名盤たち

何年かぶりに音楽やら本と落ち着いて接することができる状態になった(労働時間が減ったという意味)ので、これからはいろいろ紹介していこうと思う。
まずは今月出会った音楽から。

謎のユニットによる濃縮無国籍音楽旅行

Everyone Is A Door / Panoram (Firecracker Recordings) CD/LP
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このユニット、これまでリリースされていたのは1枚。DJ Harveyのミックスの冒頭に大抜擢されている。

エックスランド・レコーズ・プレゼンツ・XMIX01

エックスランド・レコーズ・プレゼンツ・XMIX01

話を戻して、この初アルバム、Amazonでは取扱いなしだけれど、検索すれば在庫切れになっていない店もなくはない。フォーマットがLPの店が多いのでプレイヤーのない人はBandcampでダウンロード販売を利用するのがいいかもしれない。
ディスクユニオンではFloating Pointsと比較されていた。Floating Pointsと比べるということは、端的に言うと、超大型新人であるという意味なのだろう
。Floating Pointsは、よくも悪くもデトロイトテクノの正常進化だけれど、Panoramはどんな音楽が背景になっているのかわからず得体がしれない。艶のあるシンセリードがあっという間に猥雑なディストーションギターに変化したり、次々に現れる音についていくのが大変で、ついつい繰り返して聞いてしまうし、一言で表すと……「超いい!!!」
フォーマットも3~4分でビートレスな曲も多くあり、クラブに展開する気がなさそうなところも大物感があってよいのだけれど、このあとVakulaか誰かがクラブ用にエディットしたのをシングルカットしていただけると幸甚。
試聴するだけならSoundCloudにあるのでヘッドフォンでみっちり、耳がおかしくなるギリギリまでボリュームを上げて聞くと覚醒するし、もともと覚醒していたつもりの人も寝ていたことに気づくはず。


北欧NuDisco大御所のヒット作がギッシリ詰まった事実上のベスト盤

It's A Album Time / Todd Terje (Olsen) CD/LP

It's Album Time [デジパック仕様 / 輸入盤CD] (OLS006CD)

It's Album Time [デジパック仕様 / 輸入盤CD] (OLS006CD)

代表曲の"Inspector Norse"など、2012年以降のシングルの大半が収録されているお得盤。
「アルペジオのベースに哀愁漂うシンセ」という、いわゆるひとつの北欧NuDiscoなのだけれど、引き出しが多くて飽きない。
アルバムとしての完成度も高いと思うので、そういうのを気にする人も安心。個人的にはたくさん曲が入っていて、捨て曲が少ないというだけで幸せなのだけど。
7インチで先行シングルカットされた"Leisure Suite Preben"は、まるで映画音楽のようだけれど、イントロからたちまち心を奪われてしまうので、実際に映画に使われたりしたら、映画の内容がまったく頭に入ってこないだろう。
"Johnny and Mary"では、Bryan Ferryを連れてきてRobert Palmerのカバーを歌わせている。最近、"Don't Stop The Dance"のリミックス盤が出たこともあり、今の声がくたびれ果てていて健康状態が少々心配になってしまったけれど、もしかしてChris Reaの"On The Beach"のように歌ってみたのとちゃうかという気がしてきて、そう思って聞くと実に味わい深い。
クリエイターの個人的なあれこれは気にしないけど、Todd TerjeはTodd Terryをもじってつけた名前らしく、たしかに初期の彼はハードハウス期のTodd Terryの筋肉質なイメージの21世紀版を思わせる音作りをしていたようにも思うけれど、大御所になってしまった今となっては、秋本治がデビュー当時に山上たつひこをもじって「山止たつひこ」と名乗っていた件と同じになっているのだった。


100ドル超で取引きされていた初期シカゴハウスはみだし名盤がまともな音で復刻

House Nation Under A Groove/ Da Rebels(Rush Hour) 12"EP
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最近再発が続いている初期シカゴハウス。ちょっと前は総本山TRAXの再発があったけど、リイシューの魔の手はClubhouseにも伸びてきた。早くHouse Jamにも伸びてきてほしいなぁと思う。
このユニットの片割れはのちにCajimireやGreen Velvetとしてさんざん名を馳せるのだけれども、栴檀は双葉より芳しというか、ラフレシアは双葉より臭しというか……初期シカゴハウスの簡素なトラックの上には"One Nation Under A Groove"をもじった無気力な声。今回はオランダRush Hourからの正規リリースなので音質もよろしく、いっそうトラックの骨格が露わになっている。この寒々しさはご褒美です……。
B面はいちばん飛ばしていた時期のMr.Fingersを思わせる不条理なシンセリードによって貧乏くさい魔境に連れていかれる。
原盤は4曲入りで今回は2曲になっているのだけれど、ほかの2曲がどんな按配なのか気になる。このへんのシリーズ、採算がとれているのか心配になるけれど、わたしは間違えて2枚買ってしまったので少しは貢献しているのではないかと思う。
リリースから25年経つが、いまもテックハウス系のDJにも使われているらしい。ここまで異端ならかえって普遍性を獲得できるのだろう。

どうでもいい問題について多数決を取ると無茶苦茶な結果が出るので、気をつけて生きて死にたい

某細胞を作ったと主張するX保方ユニットリーダーの話。
一部の人にとっては予想外であるところの、彼女への賛同者が多い件について、彼女の「女子力」がその原因であるかのように言う人が多くて、そうなのかなと思う。
女の涙が云々……サイコパス云々……と言いたくなる気持ちもわかるけれども、今回の話は結局のところ、「平均的な国民にとって、細胞の話には興味が持てない」ところに事の発端がある。SAIBO…それは自分の身体を構成する存在でありながらも、どうでもよい気がしてしまう不思議にキュートな存在なのである。

日本の報道が特別下品に見えてしまう罠

時計を、X保方ユニットリーダーがまだホワイトなユニットリーダーだったころに巻き戻してみよう。
たとえば、下記のリンクで、イギリスのBBCの報道と日本の朝日新聞の報道を見比べてみると、イギリスの報道は発表された内容がどんな意義をもつかについて説明している一方で、日本では、その研究者の人となりについて粘っこく報道しているように見えてしまう。

・Stem cell 'major discovery' claimed
・泣き明かした夜も STAP細胞作製、理研の小保方さん

これだけを取り出すと、日本のマスコミはダメだという結論になりそうで、実際そのような趣旨の記事がかなり賛同を集めていた。
しかし、ちょっと待ってほしい。もう1組を読んで比較してみよう。

・Stem cell researcher Dr Haruko Obokata on 'breakthrough'
・新しい万能細胞作製に成功 iPS細胞より簡易 理研

BBCでは、発見の意義についても語ってはいるが、「A young researcher」などと言っているし、映像を見ていても、日本の女性でノーベル賞を授与された人はいない、など、X保方ユニットリーダー自身の話も報道しており、イギリスの方が下品に思える。

なぜこのような差が生まれたかというと、最初の一組は、イギリスの第一報と、日本の第二報を並べたもので、あとの一組は、イギリスの第二報と日本の第一報を並べたもの。第一報と第二報同士をそれぞれ比較してみると、日英の報道は似ている。

たとえばBBCの記者が、某細胞についてさらに書けと命ぜられていたら、若い女性研究者の話はしたから、それまでの、pillowがtearsでwetになった話でもしておくかと思うだろう。決して街の人にインタビューをして万能細胞ができた件についてどう思うか聞いたりはしない。聞くまでもなく、"Ohimesama-saibou? What?"という反応になるに違いないからだ。そもそも、ダイアナさんはなぜ亡くなったんでしたっけという話で、別にイギリスが悪いという話をする気はないけれど、国を問わず、書くことがなくなってくると、だんだん本質と関係なくて下品な方向に向かってしまうものだし、下品なニュースを見たいと思っている人もまた、国を問わずいるものだ。日本のマスコミは、感謝もされず、濡れ衣を着せられてかわいそうな気もする。日ごろからうっすらと恨まれていたから、どうでもいい問題をきっかけに的外れな批判を受けてしまったのだろう。
もし、これが南京事件の話であったなら、朝日新聞の人でなくても、「ちょっと待ってほしい」といって各国の報道を比較していたに違いなかっただろうに。

記者会見で露呈した庶民の細胞ヘイト

そして、これらの報道のあと、X保方ユニットリーダーがかなりのおてんばであったことが徐々に明らかになり、X保方ユニットリーダーが記者会見を行うこととなった。
この記者会見を見て、「マスコミに責められながらも毅然とした態度ですばらしい」「彼女は嘘をついていない」など、賛同する人が意外に多く、もしかしたら多数派なのかもという気すらしてしまうほどである。
なぜああなったかというと、やはり、「細胞の話なんてどうでもいい」と思っている人が多かったからだろう。人はどうでもいいが興味を惹かれてしまった問題について語るとき、非常に安易な結論を下す。ネットのもめごとを見てしまったとき、「どっちもどっち」とコメントして、物事を俯瞰的に見る秀才の気分を味わいたくなるのと同じ現象である。発表に興味を持っていない人があの記者会見を見たなら、なんやらマスコミが女の人をいじめているように見えるのも無理はない。

たとえばこの話、仮に吉高由里子似のZ保方ユニットリーダーが、竹島の領有権をめぐる古文書を大量に保有していたと主張し、記者会見で涙ながらに語ったらどんな反応だっただろうか。

「竹島が韓国の領土であることは、わたしの所有する200の古文書が証明していますっ!」
「その古文書を見たいというご意見があれば、お見せしますっ!」
「古文書は信頼できる歴史学者に管理してもらっていますが、それが誰かは言えませんっ!」

このような主張を聞いて、「Z保方ユニットリーダーの言うことも聞いてあげてよ」と言う人はほとんどいないだろうけれど、荒唐無稽とも思える主張をし、証拠があると言いつつ証拠を出さないという点で、Z保方ユニットリーダーとX保方ユニットリーダーでは変わりはない。国民的にそれなりに関心が持たれている領土問題に関しての話であれば、Z保方ユニットリーダーは、「悪気があるから証拠を見せないのだ」と言われるだろうし、悪気がなかったことを証明できたとしたら、今度は「悪気の有無の問題ではない」という、きわめてまともな論調になるはずだ。

あるかないかわからない、むしろあったらいいかもしれない、程度の気分であるところの細胞について、何やらひたむきに「ある」と言っている、ひたむきでおっちょこちょいで少々破天荒な(実際はまったくそんなことはないと思うけれど)X保方ユニットリーダー。彼女を責めたてるのは、平均的なサラリーマンよりもずっと年収が多く、よくわからないがクリエイティブな感じの楽しそうな仕事をしている人たち、しかも下品な質問をしながら庶民の意見を代弁しているかのような傲慢な態度。細胞に興味がなければ、X保方ユニットリーダーの肩を持つ方が自然なのかもしれない。

常日頃から問題意識をお持ちだが少々統計学を苦手とする人たちで、たとえば男嫌いがひどい人であれば、「オッサンたちがあの記者会見でコロッと騙された。結局、かわいいは正義なんだ」などと言うだろうし、女嫌いがひどい人なら「女性はX保方ユニットリーダーの狡猾さを見抜き嫉妬し嫌悪している。つまり女の敵は女!」などという盲説を唱えはじめるだろう。



進化した人類であるところのわれわれとしては、そのような落とし穴を華麗に飛び越えていきたいところだが、自分の身を振り返ってみると、自分が主張したい話の多くは、他人にとってはどうでもいい話にすぎないという点にくれぐれも注意したい。人にとってはどうでもいい話をするからこそ、話の内容の妥当性よりも、X保方ユニットリーダーのように「よくわからんが、真摯に訴えているんだから正しいのでは?」と思わせる態度がとても重要になってくるのだ。

できたてがすぐ食べられ、生活が荒廃する可能性。「ポテトチップス製造ライン」導入のすすめ

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気温が上がってきているとはいえ、それに見合った愉快なできごとがないと、かえってふさぎこんでしまいがちなこの季節。
積極的に生きる喜びを獲得する施策を打っていかないと、たちまち召されてしまいかねないが、そもそも、その積極性が失われていることが事の発端……とするならば、偶然ここをクリックした方は、この記事を読まされ、ポテトチップス製造ライン導入を怪しいオッサンにより提案され、道具を買い揃えさせられ、ポテトチップスを作らされ、ツイートさせられ……など、受動態で小さな幸せを獲得させられていただければ幸いである。体重も増えるので幸せと思わないかもしれないけど……。

おいしいのはもちろん、意外に早くできる

ポテトチップス製造ライン導入のメリットは以下の4点が考えられる。

(1)作りたての温かいポテトチップスを食べることができる
カルビーの作りたてポテトチップスの店で並んだり、本郷のファイアーハウスなどに行かなくても、家で気軽に温かいポテトチップスが食べられる。(とはいえ、ファイアーハウスはとてもよい店なので、年に一度くらいは行きたい。そして可能であれば、近江屋洋菓子店とハシゴしたい。)

(2)コンビニエンスストアに行ってポテトチップスを買って戻ってくるよりも早く製造できる
製造ラインが確立できていれば、思い立ってから10分後にはポテトチップスと向き合うことができる。コンビニエンスストアと同じマンションに住んでいるとか、そもそもコンビニエンスストアの店長であったりする場合を除けば、わざわざ買いにいくよりも早い。

(3)食材を自由に選べる
メイクイーン、きたあかり、インカのめざめ……好きなじゃがいもが選べるし、さといも、さつまいもも選べる。じゃがいも以外のチップスはコンビニエンスストアで調達するのが大変だが、製造ラインさえ導入すれば、あとはいもを揃えるだけである。
揚げ油も、オリーブオイルやごま油、ラードでもよく、組み合わせは自由。たとえ社畜と呼ばれる人種であっても、この程度の自由は担保されるし、だから未来にさしたる希望がないというのに、死ぬに死にきれないという人が多いのかもしれない。

(4)失敗する確率が低い
スライサーとフライヤー(後述)を使うので厚さと温度が一定で、生産工程が安定している。

初期投資さえすれば、あとは簡単

製造に必要な資材は以下の通り。

・フライヤー
温度設定がわかりやすいものであればなんでもOKだけれど、ぼくはコンパクトな「象印 あげあげ メタリックカカオ」を使っている(小遣い稼ぎと思われたら癪にさわるため、ここであえてアフィリエイトリンクは貼らない)。電源スイッチがないのが使いにくいと酷評する人もいるのだが、電源スイッチがあると「電源スイッチを切ったかな、どうだろう」と家を出てから煩悶することになり、「この世にスイッチのなかりせば……」と思うかもしれないので、これでいいと思う。温度が設定以上になると自動で停止するので、安全性も高い。

・油
サラダ油だけでも悪くないのだけれど、サラダ油とごま油のミックス、あるいは、ラードだけなど、好きに選べるのがよいところ。

・スライサー
いもを切るために使う。いろんな厚さを試してみたけれど、1.5mmにスライスできるものが望ましい。これ以上分厚いと中が柔らかくなって噛んだときの爽快感がないし、これ以上薄くスライスしてしまうと、市販のポテトチップスと変わらなくなってしまい、アイデンティティが危機に晒され、スーサイドについて考えてしまうからだ。
また、厚さを切り替えられるスライサーも売られているが、あまりおすすめしない。スライスしているうちに切り替えられてしまい、いつしか極厚にスライスしていて、裏切られたと思い、生きているのが嫌になるからだ。

・金属のザル
揚がったポテトチップスの処遇にはさまざまな流派があるが、ぼくは金属のザルにあげて、揚げ終わったら振って油を落としている。他の方法でもよいけれど、油を切るサムシングを用意する必要がある。

・いも
品種は何でもよい。芋に含まれるでんぷん量が多いものがポテトチップスに適しているようで、たとえば、カルビーのポテトチップスは、「トヨシロ」という品種が使われているらしいのだけれど、スーパーで見かけたことがない。メイクイーンでもおいしくできるので、ふだん気に入っている品種でおいしく作ることができると思う。ぼくはインカのめざめが好きだけど。

・塩
粗塩でなければなんでも大丈夫。ただ、アジシオやクレイジーソルトは芋の味がしなくなるのであまりいいとは思わない。

自作するからといって圧倒的にお得……というわけではないがいつかは報われる

1袋買うと128円かかるとみなし、油を5回に1回替えると考える。

固定費を6800円(裸一貫の状態から買い揃えた場合)
変動費を40円(芋)+60円(油)/回とする

128x≦6800+100xとなる回数を求めればよく、つまり約240回作れば黒字になる。
フライヤーやスライサーを専用とみなした場合、かつ、競合をコンビニで入手できるポテトチップスと考えた場合のコストシミュレーションなので、実際はもっとお得になるのだけれど、かといって圧倒的に安くなるわけでもない。作り続けていたらいつかはモトが取れるのだ、程度に考えて導入していただきたいと思う。


「和風里芋チップス」がいちばんおすすめ

わたしが試し、繰り返し作るようになった愛しいチップスたちを紹介したい。


・和風里芋チップス
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【用意するもの】
里芋3個
塩1グラム
サラダ油800ml、ごま油200ml

【調理の手順】
・サラダ油とごま油をフライヤーに入れる。
・油を160度に熱する。
・さといもをフライヤーの上からスライサーで切って投入する。
・4分揚げて塩をかける。

さといもは小さくて、油断すると指をスライスしてしまうので注意が必要。
じゃがいもでは到底到達できない野性的な味わい。じゃがいもなんぞはしょせん人間に飼い慣らされた家畜にすぎない……という気持ちになる。
もともとタロいものチップスをよく買って食べていたのだけれど、このチップスを作るようになってからは買わなくなった。一番好きなチップスです。


・ラードで揚げるポテトチップス
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【用意するもの】
じゃがいも1個
塩1グラム
ラード1000ml

【調理の手順】
・ラードをにゅるにゅる入れる。
・油を160度に熱する。
・じゃがいもをフライヤーの上からスライサーで切って投入する。
・5分揚げて塩をかける。

ときどき、あるいは常に食べたくなるマックフライポテト。
揚げ油にラードが含まれていて、中毒性の源泉となっているという説もあり、それを検証するために作ってみた。
実際、揚げて食べてみると、ちんすこうを彷彿とさせる重量感のある甘味が感じられるのだが、なぜか家で作ると健康にいいような錯覚に囚われてしまいがちなので注意が必要。また、フライヤーにラードを入れていると、どうしても串カツに流れてしまいがちなので、セルフコントロールが要求される。

なお、ラードをフライヤーに入れるときが楽しい。
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・かぼちゃチップス
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【用意するもの】
かぼちゃ1/8個
塩1グラム
ラード1000ml

【調理の手順】
・ラードをにゅるにゅる入れる
・油を160度に熱する
・かぼちゃをフライヤーの上からスライサーで切って投入する
・4分揚げて塩をかける

ポテトチップス以外のチップスは高付加価値商品と位置づけられているのか、いいお値段で売られている。その意味では作れば作るほど得をした気分になるし、じゃがいもよりも栄養があるので、健康によいような気がするところがおすすめのポイント。
甘いのが好きな人は塩をかけずそのままでもおいしいと思う。かぼちゃは硬いので、スライスするときに指をスライスしないよう、必ずプロテクターを装着する必要がある。わたしは二度もスライスしてしまった。


ポテトチップス製造ラインをいちど導入してしまうと、なぜ今まで導入しなかったのだろうと思ってしまう。ただ、いちど思い立ったら10分以内に食べられる、という仕組みを作ってしまうと、いままでにない頻度でポテトチップスを食べるようになってしまうので、ダイエットを真剣に考えている人にはまったく不向き。その点はくれぐれもご注意いただきたいところであります。



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