ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

2014年5月に出会って深く感銘を受けた名盤たち

5月はいい音楽をたくさん発見できて幸せだった。

ダニエル・ジョンストンが女だったら……という一部の文化系男子の夢を80%叶えてくれる

The Space Lady's Greatest Hits

The Space Lady's Greatest Hits

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The Space Lady's Greatest Hits/The Space Lady(Nightschool)
ポピュラー音楽におけるアウトサイダーアートといえばDaniel Johnstonだけれど、女版みたいなのがいたらどれだけ日々の暮らしが豊かになるだろうと思っている人がいたとしたら、このSpace Ladyをおすすめする。人となりについて―35年間街角に立ち続けて珍妙ないでたちで演奏していたetc.―は他のサイトに譲ることにする。
その音楽性は、非音楽性も含めて素晴らしい。安いシンセをバックにポップなメロディー、しかしどうもウキウキできないのは、一貫してボーカルに強度のエコーがかかっているせいで、水中にいるような気分になる。
収録されているのはカバー曲が多いのだけれど、もはや他人の曲を演奏したとしてもうざったいほどのオリジナリティーを主張してくる。たとえば、"Born To Be Wild"のカバー。ドロドロに溶かしたカシオトーンのベースラインに過剰なエコー処理がされたボーカル。間奏もフィードバックノイズが気まぐれに挿入され、息つく暇もない。幾多のカバーの中でこれが最狂であると断言できる。
しかし、spaceとladyの相性は日本においてはあんまりよろしくないのかもしれない。spaceならgirlだろうということだろうけれど、人類がspaceにいるためにはそれなりの知力や危機管理能力が必要だと考えると、それなりに年齢を重ねていることは必須なのだろうけれど、そのあたりは多少は合理化されてほしいものであるし、このCDは圧倒的におすすめである。

ペラッペラで無力な80年代ギリシャの哀愁エレクトロ・パンク

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Anti...(EIRKTI)
80年代に活躍したギリシャのエレクトロ・パンクバンド「Anti...」の初期音源。
ジャケットやらライナーノーツにギリシャ語が所狭しと詰まっていて迫力があるし、英語やら日本語よりもなぜか高邁なことを言っているのではないかという気がしてしまうのだが、このあとのギリシャの運命を考えると、このメッセージが届くことはなかったのかもしれないし、そもそも音楽というのものが世の中を変えたりすることはないのかもしれない。
エレクトロでパンクというと、初期のDAFなど、ナチスを思わせる金属的で規則正しい音楽を想像するし、実際そんな感じかなと思って買ったら、実際はおそろしく薄っぺらくて貧乏臭く、期待以上の音だった。SNKの格闘ゲームのBGMのようなトラックの上にギリシャ語で哀愁漂うメロディーに乗って鼻声で怒鳴り散らしている……と書いたらこのアルバムの素晴らしさが伝わるだろうか。
500枚限定で、国内に何枚入っているのかは知らないけれど、見つけたら購入することを強く強くおすすめする。



Plaidの新譜以上でも以下でもないけど、当然うれしい

Reachy Prints [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / デジパック仕様 / 国内盤] (BRC419)

Reachy Prints [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / デジパック仕様 / 国内盤] (BRC419)

Reachy Prints / Plaid (Warp)
Plaidの3年ぶりの新譜で、おそらく他のサイトの紹介を見ても、それ以上の内容は書いていないと思うし、実際それ以上でも以下でもないのだけれど、定期的に作りこまれた電子音楽が聞けるというのは幸せなことだと思う。下のリンクの曲などは「前も同じようなの出してなかったっけ?」と思ってしまったのだけれど、それでもやっぱりPlaidの新譜はうれしいのだった。

Plaid - Hawkmoth - YouTube


Wolfgang Haffnerの新譜で豪華なミキサーが予想以上にいい仕事ぶりを発揮

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The Remixes / Wolfgang Haffner (Rockets&Ponies)
よく行く店のニューディスコのコーナーで入荷がなかったから渋々テクノでも買うか……と思っていろいろ試聴していたら名盤に出会った。それもそのはず、ジャズドラマーWolfgang Haffnerの新曲を、Ricardo Villalobos&Max Loderbauer、Nightwares On Waxが腕を奮ってリミックスしているではないか。前者は生々しいベースに冷徹なパーカッションが絡む、クールな逸品で、後者はタムをギッシリ詰めこまれたスモーキーな打ちこみジャズで、両方好きな人はあまりいないかもしれないけれど、どちらかは好きなはず。

2010年のおそらくマスターピースだったであろうデトロイトテクノ

Monorail

Monorail

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Monorail / Motor City Drum Ensemble (MCDE)
月に1回はデトロイトテクノ風の音楽を聴かないと具合が悪くなる病気を患っていて、最近すこぶる調子がよろしくないのだが、4年前に買っていたと思われるMotor City Drum Ensembleを含むコンピレーションを発見した。半年はこれでしのげるのではないかと思えるほど完成度の高いデトロイトテクノ。Orlando Voornがデトロイトテクノの豊饒さに耐えかねてミニマルテクノに逃げなかったら、こんなのをリリースしてくれていたに違いない……という感じの名盤。2枚組だけれどA面が素晴らしすぎて、おそらくB面以降を聞くことはないと思う。