ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

電子音楽を中心に、2016年に聴いた音楽、ベスト10曲

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去年は定額制で聴き放題のサービスが躍進したが、その一方で、聴き放題にすらお金を払わないクレバーな消費者も少なくない。Apple Musicの網羅度は素晴らしいと思うけれど、自由に聴けないので個別に買ってしまう。知人がiPhoneでYoutubeを開いて、Bluetoothを経由してJBLのスピーカーからそれなりにいい音で音楽を流しているのを見て鼻水が出てしまった。わたしのようにコンテンツをちまちま買って聴いているのは変態の部類に入るのかもしれない。
ノーマルな感性を持った音楽ファンは、日本におけるここ20年の生活水準の低下を、もっぱらコンテンツにお金を使わないようにすることでしのいできたと推測しているが、わたしひとりがその流れに取り残されているように感じている。
―とはいえ、自分の好きな音楽が無料で提供されることは少ないので、わたしはずっとコンテンツを購入し続ける側に残るしかないのかなと半ば諦めている。
そんな暗い前置きはともかく、去年聴いた音楽のベスト10を選んだ。

Melody / Plustwo

Melody (1983 Radio Version)

Melody (1983 Radio Version)

  • Plustwo
  • エレクトロニック
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes
イタロ・ディスコの1983年のカルトヒット曲の12インチシングルが満を持して去年再発されたのだが、昨年を振りかえってみると、こればかり聞いていた。シンセの各パートの溶け具合が、独自にテクノ的アプローチを発見したようで、Imaginationの"Just An Illusion"に通ずるよさがある。このYoutubeも、このダンスなんなの……と思いつつも100回は見てしまった。

Melody - by Plustwo. The original video
近年、「オリジナルは200€超のレア盤が限定500枚でヴァイナルリイシュー!」みたいなのをよく見かける。わたしとしてはヴァイナルでないリイシューの方がありがたいのだが、このビジネスモデルでないと商売にならないと思われ、それはまあそうなんだろうなと思って購入することにしている。
すでに再発盤も50€くらいするのだが、B面もベースラインが斬新で同じくらい素晴らしいので高くないと思う。ショートミックスならiTunesでも入手できるのだけれど、iTunesには後世のダサミックスバージョンが混入しているので要試聴。


Super Koto / Ponzu Island

Super Koto

Super Koto

  • Ponzu Island
  • ダンス
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
プロモーションビデオがオフィシャルなものでもアレなので紹介できなくて残念。一聴するとスーパーファミコン時代のゲーム音楽のように聴こえるのだが、もしこれが何らかのゲーム音楽だったとするなら、あまりの素晴らしさに、ゲームにまったく集中できないはずだ。タイトル通り、全面的に琴の音がフィーチャーされている。
琴の音って、80~90年代のシンセサイザーのプリセット音として高確率で収録されていたけれど、日本製だったからというだけで、居酒屋のランチタイムに流れる歌のない歌謡曲でしか使われていないイメージだったが、適切なアレンジがされている琴の音の素晴らしさがわかる。これがデビュー作というのだから驚き。


ダンシング / 桑名正博

テキーラ・ムーン

テキーラ・ムーン

マリファナとコカインの使用により絶賛執行猶予中の78年にリリースされた『テキーラ・ムーン』から。ずいぶんとファンキーでドラマチックなAOR。去年は日本のダンス・クラッシックスをたくさん聴いたが、最初の1曲はこれを選ぶことが多かった。78年というと、サタデーナイトフィーバーが流行した年で、日本でも、DJが音楽の間にブツブツ話すスタイルだけれども、レコードを大音量でかけるディスコが流行していたはずだが、歌詞を聞く限り、この曲が想定しているのはどうもライブハウスで、そのへんの時代錯誤的なこだわりも含めてめっちゃ熱いで……。
『テキーラ・ムーン』は、大阪ローカルで定番になっている『月のあかり』を収録していることで有名なのだけれど、そちらはあまりよさがわからない。大阪で過ごしたのが人生の半分以下になってしまったのだから仕方ないのかもしれない。


Awakening / 佐藤博

アウェイクニング スペシャル・エディション

アウェイクニング スペシャル・エディション

同名アルバムのタイトル曲。あまりにも有名だけど、自分には関係ないと思って聴かずに敬遠し続けてきたのだが、関係ありだった。軽快なフュージョンなのだが、イントロを耳にしただけで、この音楽がウルトラ緻密に作りこまれた傑作であることがわかるし、4分にも満たないのに、1時間くらい聴いた気分になる。1本の音楽ファイルにすぎないのに、贅沢な気分になれる逸品だと思う。81年の作品だが、いかんせん当時こちらは小学生。感じる能力がこちらに備わっていなかったので、発見するに機が熟したのだろうと思っている。アルバムの他の曲は歌つきのが多いけれど、ここまでくると音に集中したいので邪魔だなと思ってしまう。



New York New York / Nina Hagen

Fearless

Fearless

いままで、Diamanda Galasを持ってるからNina Hagenは聴かなくてもいいやと思っていたのだが、その分類が間違いであると気づいたのはLindstrom"Late Night Tales"で"African Reggae"を聴いたときだった。欧米でレゲエがさほど普及していない時期なのに、一足飛びに「わたしの考えたレゲエ」をやってのけたのだったが、こちらはそのヒップホップ版と言ってもよいと思う。ヒップホップというジャンルを履き違えすぎて別のジャンルになっている。がなったり朗々と歌いあげたり、聴くたびに失笑を禁じ得ない。
先日、息をしているかどうかが気になってNina Hargenで検索したら、なりすましアカウントを見つけ、Lady GAGAはわたしのパクリと言っていて納得してしまったのだが、Lady GAGAの素晴らしいところは、「見た目はおかしいが音楽は普通」で、保守的であることを恥じている多くのリスナーが脳内音楽革命を経由せずに冒険した気分を味わえるようにした点であり、売れたいのであれば、Nina Hagenみたいに音楽性までおかしくしてしまってはいけないのだった。特に歌い方はちゃんとせなあかん。


Cut Eleven / Innsyter

Cut Eleven

Cut Eleven

  • Innsyter
  • エレクトロニック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
Delroy Edwardsのレーベル、L.A. Club ResourceからのデビューLPに収録。のっけから荒れたロウハウスで、Caroline Kが生きていたら、Nocturnal Emissionsがこんな形でダンスフロアを侵略していたのかもと思わせる。この曲以外も荒れ放題でペンペン草も生えていないが、ほかのロウハウスではめったに感じられない肉感的なグルーヴ感に全編覆われている。


Wasser Im Fluss / Thomas Fehlmann

Wasser Im Fluss

Wasser Im Fluss

  • Thomas Fehlmann
  • エレクトロニック
  • ¥150
  • provided courtesy of iTunes
The Orbはコンスタントに新譜をリリースしていて、毎回すぐ買って聴いているのだが、だんだんリリースのペースに満足できなくなってきて、そういや片割れのThomas Fehlmannのソロ作品を掘ったら慰めになるのかも……と思って聴いてみたら、2010年のアルバム"Gute Luft"に名曲を発見した。
渋いフィルタリングに彩られた分厚いパッドのシークエンスが、The Orbの"Ripples"の完成版なのかなと想像させるが、彼のキャリアを4分におさめたような完成度で、テクノを代表する曲と言えるのではないかと思う。


Gente Que Aun Duerme / Mono Fontana

Gente Que Aún Duerme

Gente Que Aún Duerme

  • Mono Fontana
  • ジャズ
  • provided courtesy of iTunes
ロスアプソンでめちゃめちゃ押しているのを発見し、在庫がなかったので泣く泣く他で手に入れたのだが、98年作リリースの"Ciruelo"に収録されていて、のちに日本で「アルゼンチン音響派」と呼ばれる流れの源流に位置するらしかった。98年のわたしは、時間もお金もなかったので気づくのがずいぶんと遅れてしまった。よくわからないキーボードの間に現実音が挟まっていて曲の輪郭もつかめないまま11分が過ぎてしまうのだけれど、ポジティブなパワーにあふれかえっており、ポジティブもすぎると音楽の体裁をとることが難しいということがわかる。
聴いたあと、他の音楽を聴いても退屈で悪趣味な音楽にしか聞こえないので、特別な時以外は聴かないようにしている。今年聴いた中で一番印象に残った。


Pleasure Centre (Pharaohs Remix) / CFCF

Pleasure Centre

Pleasure Centre

  • CFCF
  • エレクトロニック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
完成度の高いバレアリックといえばMark BarrottとかJose Padilla、Seahawks、Pacific Horizonsなどがあがると思うけど、最初のひとりを除いてわりと寡作な人たちなので、バレアリック資源の枯渇がぼくの中で切実な問題になっている。そんな中でCFCFの存在に今さら気づいて救世主だと思っている。
特にこの曲、オリジナルもすごくよいのだが、Pharaohs のリミックスが、ぶっちぎりに叙情的で繰り返し繰り返し聴いてしまう。


Qi Xin Mian Guan / Miskotom


ディスクユニオンの試聴用コーナーで、傑作風味のジャケットを発見し、念のために聴いてみたらどこに針を落としても夢のような音が流れてくるのでただちに購入した。なんとデビューEPとのこと。
Mr.Fingersが現代に蘇った(というかMr.Fingers自体、一昨年、いい感じに蘇っているのだが)かのようで、少ない音数で夢のような空間を作っている。2016年にTR909でこんなにときめいてしまっていいのかしら……と思う。レコードのみのリリースだけど、レコードに合った音と、ゆかいなジャケットで、その理由がわかる気がした。今後、リリースのたびに必ず買うことになりそう。



今年は、最高だと思って調べてみたらデビュー作だった……という曲が多かったので、来年いい音楽に出会えることはすでに約束されており、今からとても楽しみである。



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