読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

ムービー広告には、あらかじめ失敗する仕組みが内蔵されている

今回は広告の話。とあるショートムービーが非難囂々だったことも記憶に新しいが、仮に、ポリティカリーにコレクトだったとしても、ネットのムービー広告には、失敗する仕組みが内蔵されているので、儲かりすぎて困るので損をしたいと悩んでいる企業におすすめである……という話をしたい。


「新しい広告媒体」について考えたとき、あの会社でもこの会社でも、以下のような会話が繰り広げられているに違いない。

A「テレビや雑誌広告以外の広告媒体も開発していかないとねー」
B「そうですね、開発は大事ですよね、わたしも昔はいじられてもくすぐったいとしか思わなかったのですが、開発されるうち、第二の悦び……といいますか、大変頼もしい存在になりました」
A「歳をとってくるとね、第三第四もね、開発されていくよ。それがどこかは人によるね。楽しみにしておきたまえ……それはそうと、新しい媒体といったらネットだよね」
B「そうですね。ツイッターとかで拡散されて売り上げがビンビンですね」
A「ビンビンか……しかし、何を拡散したらビンビンになるかね」
B「映画を作って流すんですよ。無料で映画が見られるなんてユーザーにとってはいい時代ですよね」
A「なるほど……たしかにネットならではの表現だな。TVCMは1回15秒で数百万かかるけど、ネットはより長時間の映像を安価で流すことができる!」
B「時間があるから商品名連呼みたいな下品なのじゃなくて、じっくり見られるものがいいんじゃないですかねー」
A「そうだね、顧客が成長していくような、見ごたえのあるものが……」
B「うん、トライアルでやるものだから、特定の商品を売るのではなくて、イメージ広告として作ってみようよ」

この世には神も仏もない……AにもBにもこれから胃の痛くなる日々が待ち受けているとは気づく由もない。これなら、仕事そっちのけで下品なネタの応酬でもしていた方が会社に利益をもたらすことはなくても、少なくとも損失を与えることはないのでいいのかも……と思うのだが、「新しい広告」→「ネット」→「ショートムービー」という三段論法は自滅する可能性が極めて高い。盛大につけ火されるか無視されるかのどちらか好きな方を選ぶ状況だと言っていいだろう。
前置きが長くなったが、今回はショートムービーの広告が失敗する4つのメカニズムについて考察していきたい。なお、わたしにまったく集中力がないため、メカニズムひとつについて説明するたび、先日撮影したカエルの産卵シーンの写真を貼り、意味不明なキャプションを挿入させていただくことになってしまうのだが、どうかご容赦いただきたい。


(1)物語の冒頭はたいてい心地よくないものである

ノーマルな人間向けに作られた物語は「何らかの困難が生じる→努力したりヒーローが現れたりして解決」という流れで構成されることが多い。「退屈な日常→すてきなハプニング」という流れもあるが、これらのフレームの外で万人にイエスと言わしめる物語を作るのはなかなか難しい。
桃太郎も、おじいさんもおばあさんも金持ちで筋肉ムキムキであったら、桃が流れていても、なんだか尻みたいで笑えるよねと思ったところで話が終わってしまうし、シンデレラが最初からピカピカのオベベを着ていたら、いじめっこたちもたちまち退散し、多くの読者はよかったと安堵するものの、どことなく物足りなさを感じてしまうはずだ。
物語の冒頭は、心地よくないシーンから始め、その不快感を原資にして物語を駆動させるのだが、ムービーの冒頭もまた、心地よくないシーンから始めるしかないのである。

【カエル休憩その1】
f:id:kokorosha:20150325071339j:plain
ヒキガエルの雄が雌を刺激して卵を産ませ、そこに精子をかけ、有精卵になる。
同じ体外受精でも、鮭の産卵は、雄も雌もボロボロになりながら川をさかのぼり、雌が生んだ無精卵に白い汁をかける。傍から見ていても何が楽しいのかわからず、つらい気持ちになるだけだが、カエルは見かけ上、愛し合っているかのように見えるのでまだ救いがある。


(2)ユーザーの問題解決ストーリーは、ユーザーが課題を抱えているシーンから始まる

商品を作るときや売るときは、ターゲットとなる顧客の問題解決のストーリーを立てるもので、「顧客の抱える問題が、弊社の商品を手にして解決する」という流れをとる。
これは先ほどの物語の枠組みとまったく同じ構造なのだが、それをそのままムービーに落としこんでしまうと、顧客が問題を抱えて苦しんでいる様子から始まる陰惨なムービーが自動的に出来上がってしまうことになる。「顧客の実感に寄り添うムービーにしよう」などと思ってしまったら、なおひどい。リアリティ満載の地獄絵図から始めることになる。
たとえば、バナー広告で有名な「わたしの年収低すぎ」をムービーにしたものを見たら、おそらく多くの人はつらい気持ちになってしまうだけだろう。

【カエル休憩その2】
f:id:kokorosha:20150325071338j:plain
雌がやたらと動き回って他の夫婦の産んだ卵を踏み越えていたのだが、雄が、こっちにもかけておくかと別の雌の産んだ卵に精子をかけたりすることはないのか、非常に心配であるし、ぼくがカエルの雄なら絶対にそうするだろう。



(3)顧客は広告を見るのが嫌いである

ここまでの話なら、「冒頭が不快でも、それはこのあとの展開でハッピーエンドになるのだから問題ないではないか」と思うかもしれない。もちろん、映画ならまったく問題はないのだけれど、これは企業の広告なのであり、顧客にとっては、見たいどころか、できれば見ずに済ませたいコンテンツなのである。
たとえ1分のムービーであったとしても、残念ながら、冒頭から見る人の数は減る一方。ムービーの出来がよければ減少の度合いがゆるやかになるかもしれないが、それでも何割かは冒頭の陰惨な描写を見て見るのをやめる。先ほどのセオリーに従って作ったムービーなら、離脱した顧客にとっては、企業のネガティブキャンペーン広告を見たのと同じ効果になる。
1分の映像でそうなのだから、毎週5分ずつ連載していき、徐々にハッピーエンドに近づいていくようなムービーについては言わずもがなである。
そもそも、ムービーのターゲットは誰なのだろうか。
15秒のCMで好感度が上がらなかった顧客が、毎週5分ずつチャンスをくれるはずもなく、最後まで見た顧客はもともとムービーがなくても好感を持ってくれている顧客にすぎない。つまり、優良顧客に火を飛び越えさせてやけどの度合いを確認するという、世にも奇妙なスペシャルコンテンツを作っているのである。


……などと文字だけで語ってもわかりづらいので、顧客の数と時間、印象の関係の概略がわかるグラフを作った。
f:id:kokorosha:20150325071342j:plain
―つまり、作品として3話作ったとしても、視聴者の総数で考えると、「ひどいムービー」と思う人の方が多数派になる仕組みなのである。
1話にまとめたとしても、最初から見て、徐々に見るのをやめていくという構図は変わらない。
ここで「最後まで見て作品のよしあしを評価してほしい」とお願いすることはできなくはないが、そのお願いを聞いてもらえるかは非常に怪しい。
視聴者には企業が倫理的でないことを糾弾する権利があるが、企業には、視聴者が倫理的でないことを糾弾する権利は事実上ないのである。


【カエル休憩その3】
f:id:kokorosha:20150325071340j:plain
上を向いて産卵中。このように撮ると、次の世代へ思いを馳せながら産卵しているように見える。
わたしは日本カエル組合(略称日カ組。日教組と並んでミスターアベの二大お気に入り組合である)からイナゴ三匹で買収され、イメージアップに努めているのである。


(4)「ツイートしやすさ=燃えやすさ」でしかない

これらの困難を乗り越えることができたとしても、最後に待っているのは、ガソリンまみれになったツイートボタンである。ムービーの評判がよくても、見て「まあいいんじゃないの」とそのまま別のコンテンツを見るだけでいっこうに広まらない。なぜなら、「いい話」よりも「いやな話」に人は注目するからで、それを一番よく知っているのは、ほかでもないムービーの製作者のはずである。なぜなら、冒頭で「いやな話=ユーザーが課題をもって悩んでいる状態」を描くことによって注意を引こうとしたのだから。

【カエル休憩その4】
f:id:kokorosha:20150325071341j:plain
かくして、産卵が終わり、受精卵ができあがった。哺乳類の出産シーンならそこそこ感動するのだが、カエルの産卵については、「この小さな身体からこれだけの卵を出すなんて、頑張り屋さんやなー」と感心はするものの、感動はない。
ウミガメだと涙を出したりすることで人間になぞらえることができるため、カエルにも、ウミガメの出産時の涙に匹敵するキラーコンテンツをお願いしたいところである。


以上、ムービー広告に内蔵されている失敗のメカニズムについて説明したが、もし運悪く、ムービー係に任命されてしまった場合、そこでできる努力は、せいぜい「誰にも着目されない」起伏のない物語を作ってつけ火されぬようにすることくらいで、仮にアクセス数が自分のブログより少なくなってしまっても、燃やされて社内事例集に入れられ語られ居づらくなって退職届をしたためたりするのに比べれば、ずっと幸せ……と思うしかないのである。


◆ココロ社twitter◆
https://twitter.com/kokorosha
1日に2回くらいしか呟かないおとなしい子なので、フォローしてください。