ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

衰退しつつある産業がやりがちな「お説教広告」について

テクノロジーの進化が、かつて栄華を極めていた巨大企業のビジネスモデルを成り立たなくさせてしまうことがある。たとえば郵便。物流はなくてはならないが、信書について考えてみると、手紙を出すメリットはほとんどない。手書きだと温かみがあるような気がするが、別にLINEで暖かいメッセージをクリエイトすることは可能であるし、手書きの手紙をもらったら手書きで返さなくてはいけないような気がして、むしろありがた迷惑という気もしなくもない。手書きで手紙を書くのなら、往復ハガキで、返事も書いておいてほしいし、それが本当の礼儀というものではないだろうか……などと妄言を吐きたくなってしまうほどに信書の電子化は不可避であり、ドル箱であったところの年賀状もまた、衰退の一途を辿っている。


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先月の話だが、電車を降りたら不意打ちに遭った。
つまりこれは、「年賀状を出して、ちゃんとした大人になりなさい」という意味である。しかも、高齢のタレントさんに言われるならスケールの小さな遺言だなと思うだけだが、若いタレントさんに言われていて、「若者でも年賀状を出すのにあなたときたら……」と言われたような気持ちになってしまった。たしかにわたしは「あなたときたら……」と言われるようなオッサンなのかもしれない。ジャケットはかろうじて持っているが肩パッドが入っていない。「Tポイントカードお持ちですか?」と聞かれても、Tポイントカードが丸出しになっている財布を見せながら「大丈夫です」と答えてしまう。しかし、電車を降りるときくらいお説教プレイは控えていただかないと、電車とホームの間に足がはさまってしまい、そのショックで失禁して「助けて!やっぱり助けに来ないで!」というアンビバレントな気持ちになってしまう危険性があるのだ。


また、撤収してしまった某書店の女性向け文庫本フェア、「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」が、ソフトな口調ながらお説教プレイじみていて、女性差別の問題でもあるのだが、これもまた、かつて栄華を極めていた文庫本が売れなくなってきたからという背景があるからだった。


いまとなっては顧客にとってメリットが目減りしてしまった商品やサービス。顧客に「これを買うとこんないいことがありますよ」と訴求することができなくなってきたら、道徳や教養や伝統という実態のない概念を持ち出したくなってしまい、ついついお説教じみてしまうのかもしれない。しかもかつては栄華を極め、殿様気分が抜けていなければなおのことであるが、顧客を不快な気持ちにしてしまったら元も子もない。


なお、このあと発生しそうなお説教広告を考えたので、ビジネスモデルに不安を抱えていらっしゃる企業のご担当者様におかれましては参考にしていただきたいと思う。

・書店「ネットを見るより本を読むのが大人だよね」
・電話会社「メールよりやっぱり直接通話するのが礼儀だよね」
・旅行会社「写真を撮るより風景にひたるのが人間らしいよね」
・百貨店「安物買いの銭失いって知ってます?」


今回のようなお説教広告を目にして、わたしはひとりのサラリーマンとして、「お客様は神様ではないにせよ、下僕でもないし、そもそも仕事中に性的な戯れをしてはいけない」という、当たり前の教訓を得、ズボンのチャックが締まっているかを改めて確認したのだった。


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