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ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

「ダサピンク現象」は、男女の問題ではなく文化的差異の問題である


はてな界隈でのみ話題になっている話はなるべく扱わないというのがこのブログの方針である。はてなユーザー以外の人にも読んでもらいたいからで、はてな界隈で話題になっている話を扱いたい場合は、より一般論として読めるようにテーマを変えて書くようにしている。
ただ先日、ピンク色のプロダクトが多く見当たるという一般的な事象について記事を書いたときに、あくまでもその一部として「ダサピンク現象」について言及しただけで、もう書かない方がいいなどというご意見を頂戴した。つまり、もっと書いてほしいと思っているのに、それが素直に言えないのである。
今回は、そんな愛くるしい方々の熱いリクエストにお答えし、心をこめて「ダサピンク現象」についての考察をしていきたい。

「ダサピンク現象」の定義とその具体的な事例

はてな界隈で話題になっている「ダサピンク現象」は、どのように定義されているかをまとめておこう。
「ダサピンク現象」とは

「女性ってピンクが好きなんでしょ?」「女性ってかわいいのが好きなんでしょ?」「女性って恋愛要素入ってるのが好きなんでしょ?」など、男性の、女性蔑視的な思いこみから作られた「女性向け」プロダクトが世にあふれている現象

としておくと適切だろうか。「ピンク」というのは象徴的な事例にすぎず、ピンク色でなくても、男性の女性蔑視を含んだ思いこみから作られているかどうかが最大のポイントである。男性の思いこみから作られていないものや、男性向けの黒ずくめのプロダクトについても「ダサピンク現象」に含むのであれば、そもそも男女の話は関係なく、マーケティング一般の話でしかない。単純に「ダサ現象」と呼べばよい現象になる。「ダサ現象」については、「たしかに、マーケティングをしないと的外れなものができるよね」と思うだけで、それ以上の感想はない。それをわざわざ、「ダサピンク現象」と名づけるのはミスリードにすぎないので、ここでは扱わない。

定義を確認したところで、「ダサピンク現象」の事例を挙げてみよう。
下記のような、「女性ってピンクが好きなんでしょ?」「女性ってかわいいのが好きなんでしょ?」「女性って恋愛要素入ってるのが好きなんでしょ?」的なバイアスによるものがあげられる。

・自動車:女性に受け入れやすい、丸い、かわいいフォルム
・ノートパソコン:商品名が「○○キッス」
・ノートパソコン:女性が好きそうな、星占いのソフトがインストールされている
・体温計:機能だけでなく、デザインも女性向けにピンク色をあしらってパッケージも花柄に
・美容家電:ふつうの家電は角張っているが、女性向けに丸みを帯びたデザインを採用

念のため書き添えておくが、わたしはこれらを「ダサ」いと思っているわけではない。一部の人が使う「ダサピンク現象」の定義を具現化したものが、これらのプロダクトだろうと言っているのである。
これらのプロダクトが、実際どのように作られていくのか、実態に沿って考えていこう。

プロダクトを「ダサピンク」にしている人が仮にいるとすれば、社員やデザイナーである

プロダクトを作る際、さまざまな色がある中で、どの色にするかを絞らなくてはならない。ピンク色のものを作るとしても、ピンク色にも好みがあるからと5色のピンク色のプロダクトを出すわけにはいかず、ボリュームゾーンにあるピンク色1つを選択せざるを得ない。デザインについても同様である。その選択の結果が気に入らない人は、なぜこの色(あるいはデザイン)を選んだのかと疑問に思うかもしれないが、それは単純に、「マーケティングの結果として一番売れそうだから」である。プロダクトについて決定権を持つ人たちは「ここで俺の女性への偏見を十分に反映させたダサいプロダクトを作って会社を潰したるで!」などとは決して思っておらず、マーケティングが雑なときもなくはないにせよ、「多数派の女性に受け入れられたい」と思っているはずである。

プロダクトについての決定権を持つ管理職はプロダクトの細部にまで指示を出す暇もスキルも持ちあわせていない。「ダサピンク現象」の存在を主張する人は、管理職がどの色のプロダクトを作るか、CMYKの値をあーでもないこーでもないと考えて、「どっちがCでどっちがMだったかすぐ忘れちゃうんだよなー」などと独りごちたり、DICのカラーチャートを指に唾をべったりつけながらめくったりしているとでも思っているのだろうか。実際、プロダクトの色やデザインについての管理職の関与の度合いは、「女性向けの企画を持ってきて」と命じ、それが女性向けかどうかをデータを見て決める程度で、細かく言う管理職でも、せいぜい「ピンク色にしてほしい」と指定するくらいだろう。「CMYKは0/70/6/0にしなさい」などと細かい色指定をするはずもない。ピンク色にしていれば管理職が満足するのだから、社員やデザイナーは、より多くの女性に好まれるピンク色を調べてプロダクトに反映させることで帳尻を合わせることができるし、上司も顧客も満足するはずなのである。上司が、わざわざ「ダサくして」と依頼しない限り、現場がデザインの溝を埋めにいくものだ。
「ダサピンク現象」の実際にあった例として、『「ピンク=女性向け」?』というツイートのまとめ記事がよく参照される。ここで語られている事例については、「そのおっさん(デザイン業)」と書かれていているところから考えると、自分の得意分野だと張り切って細かく的外れな指図をしてしまったのだろうし、そもそも、発端となった人も、自分が推すデザインを「ニッチでも確実に需要があるとこは攻めるべき」と言っているのだから、ニッチであることは自覚しているようである。単に、ニッチな市場を狙うのは仮にローリスクであったとしてもローリターンだから事業としてはやる意義が薄いと考えていたのかもしれない。

プロダクトにセンスが感じられるか否かは、細部の色やデザインをどうするかに大きく依存するが、そこには外注先のデザイナーや、それをチェックする社員の関与度が大きい。「ダサピンク」は会議室ではなく、現場で起きているのである。「ダサピンク」なプロダクトがあるとしたら、その主犯は社員やデザイナーであり、そこに若い女性が一定数含まれていることは言うまでもない。

「ダサピンク現象」は、実は男女の話とはあまり関係がない

「ダサピンクと感じられるプロダクトの背景には常に、男性管理職の女性蔑視を含んだバイアスが反映されている」という説について、誰にでもわかる反証を挙げるなら、ただ単に「女性が開発したプロダクトにもダサピンクと感じられるものがある」ことを示せばよいはずである。
実はこの記事内ですでに反証を示している。今回「ダサピンク現象」の事例としてわたしが挙げたプロダクトは、すべて、女性チームが開発した事例である。また、冒頭の写真も同様である。男性管理職が云々というのが、偏見にすぎないことがおわかりいただけたのではないかと思うし、それでもなお、男性管理職のみが「ダサピンク」なプロダクト作りに邁進していると言いたいのであれば、個別に「ダサピンク」だと思う事例について、どのようなプロセスで開発されたのか、すべてが男性管理職によるゴリ押しで作られたのかを調べてみるとよい。また、そのプロダクトの売れ行きを確認してみるとよい。
「まさかこんなに自分の気分にフィットしないものを同じ性別である女性が作るわけがないし、女性に売れるわけがない」と思う女の人もいるかもしれないが、文化的差異はときに性差よりも広がりを持つことがあることは周知の通りである。

「女性ってかわいいのが好きなんでしょ?」という偏見を批判するのであれば、「男性って女性の意見を聞かずにゴリ押しするんでしょ?」という判断が偏見でないかどうか、十分に検討すべきだったはずだ。的外れな子供向けのプロダクトがあったとして「きっとこれは子供のいない管理職が決裁したのだろう」などと書いたら問題になるはずだ。いかに的外れであるかの話に集中すればよいのであって、その管理職の性別などのバックグラウンドについて言及するべきではないのは言うまでもない。

「ダサピンク」が目につくのは、それが人気だからである

先ほど挙げた、女性チームが作ったプロダクトは、実際のところ、市場に受け入れられているものもある。そもそも、「ダサピンク=女性に売れない」のであれば、「ダサピンク」なプロダクトは市場原理によってあっさりと駆逐されているはずだし、もし女性のニーズにアンマッチなものが一時的に目につくことがあっても、市場原理に任せておけば、その発案者もろとも消えていくはずなのだ。もし、「ダサピンク」なプロダクトが頻繁に目につくのであれば、それらはセールス的に成功をおさめているということになるはずだ。まさか、オッサンのファンタジーのために、赤字覚悟で売れないデザインのものを無理に作り続けていたり、的を得ないデザインの製作費のために、「オッサン慰労費」という、特別な勘定科目があったりするとでも言うのだろうか。
つまり「ダサピンク」なプロダクトが街にあふれているのはなぜかというと、それが「ダサ」くないからか、あるいは、多数派が「ダサ」いかのどちらかである。

「ダサピンク」=女性の最大公約数の具現化だから、一部の人には「ダサ」に見えてしまう

長々と書いてきたが、「ダサピンク」と言われているものの実態は何なのかというと、「女性の嗜好の最大公約数を具現化したもの」なのである。それは大量生産のプロダクトの宿命であり、平均的な女性の感性から(優劣ではなく、単純に距離が)遠くにいる人にとっては「ダサ」く見えてしまうのは当然のことなのだ。以前も書いたが、自分のタイムラインに「ダサピンク」が好きな人が見当たらないのは、自分のタイムラインにEXILEのファンが見当たらないのと同じ現象にすぎない。
女性の好みが細分化される傾向があるというなら、いっそう「ダサ」いと思う人も多くなってしまうだろう。選ばれた1つのピンク色について、「このピンクは薄すぎる」という人がいたかと思えば、「このピンクは濃すぎる」という人もいて、「いやいやピンクは好きじゃないから」という人もいて、「わたしは別にデザイン性は気にしないし…」という人も出てくる……という状況が起きているのである。


以上、「ダサピンク現象」を語るにあたって、男性/女性という対立軸が適切ではないことを示してきた。「ダサピンク現象」が問題であるとするなら、文化的差異を軸に話をすすめなくてはならない。その詳細について語るには、いわゆる「マイルドヤンキー」論なども参照せねばならないが、また回を改めて書こうと思う。


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