ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

誰が「不謹慎」と言っていたのか

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(写真は大久野島です。何か貼らないとと思って)


九州の大地震からまだ一週間ちょっとしか経っていない。
いまとなっては前震に数えられている、熊本を震源とする最初の地震のときは、会社で仕事をしていたのだが、早く帰りたいと思って集中していたため、周囲の声が聞こえていなかったようで、また、家に帰ってすぐ寝てしまったので把握しきれていなかった。
翌日の朝起きたら、わたしのiPadは、「こういうときに不謹慎とか言ってあれこれ自粛させようとする人がいるが、それはよくない」という趣旨の有名人無名人のツイートにあふれていて、もしかしたら、端末がよくなかったのかな、アップル製品は直感的に使えると一般的には言われているが、わたしの直感にはそぐわない挙動が多いからなぁ……などと思いながら、Xperia Z4 タブレットでも確認したが、やはり同じだった。なお、似たような大きさのタブレットを2台持つことに何の意味があるのかと思った方もいらっしゃるかもしれないが、部屋が散らかっていて、どちらかのタブレットが埋もれていることが多いので、実質的には1台しか持っていないのと同じなのだった。

そしてわたしは、朝に見た夢についてツイートするのを控えることにした。水道の蛇口がパンパンに膨らんでいて、必死で蛇口を塞いでいる夢なのだが、夢の中で「努力の方向性が間違っているような気がする。この夢の中で蛇口を塞ぎ続けていたらオネショしてしまうのではないか?」と思ってガバリと起きたのだ。わたしの無意識の構造があまりにも単純であったことを可及的すみやかにご報告差し上げたいと思っていたので残念に思う。

あえて深夜や早朝に「不謹慎とかいう人はよくない」云々とツイートする人がいるくらいだから、不謹慎狩りが好きな人はそれなりにいるのかもしれない。たとえば、若い女の人が犯罪に巻きこまれたら、発言している人の20人に1人くらいは、「犯罪はよくないが、夜道をこの時間に歩いているのはいかがなものか」という趣旨の犯罪ファンの発言を見かけるし、似たようなメンタリティの不謹慎叩きがそのくらいいても不自然ではない。しょうもない夢についてツイートするのはリスキーかもしれないなと思ったのだった。

しかし、目覚めてしばらくしてから、念のため、「不謹慎」で検索してみたら、「不謹慎とか言う人って何なの?」という意味の発言しか見つけることができなかった。ようやくここ数日で、タレントに言いがかりをつける特殊な人達を新聞が話題にしはじめたのだが、マスコミが血眼になって日本中の悪意をかき集めてもその程度。「不謹慎だ!」などと口走って自粛を強要する人材の不足が目立った。
これから、日本はいくつもの不幸に襲われることは明らかなのに、不謹慎マニアはこのままいけばウナギよりも早く枯渇してしまうのかもしれない。

東日本大震災のときですら、不謹慎であることを責める人はさほどいなかったけれど、今回はいっそう少なかったので、事実を針小棒大にして遊ぶだけでは物足りなくなった人たちが、ついに「中年男性が不謹慎だからと救援物資の生理用品を突き返した」という、事実確認ができていない話を広めるに至ってしまった。夢にまで見た不謹慎の狩人、しかも女性蔑視がミックスされているのだから、大ヒットは確実。ふだん冷静なはずの人でも、わざわざ事実確認をして、思う存分叩ける藁人形を自分から手放すのはmottainaiと思ってしまったのだろう。

いまや、不謹慎だから自粛しろという(一言でまとめると「粛清」にすぎないのだが)自粛ムードは、自粛を要求する人だけの力では非力すぎて到底醸成できなくなってきており、自粛ムード反対派の支援がないと、たちまち消えてしまう、はかない存在になってしまった。

自由を望んでいる人たちによって窮屈な気分に追いこまれてしまうというのはなんとも皮肉な話だけれど、不自由と戦うのが趣味の人にとっては、自分を抑圧する存在は人生のスパイスのようなものだろう。自分にもそういう不自由をエンジョイしたい気持ちがないとは言いきれないので、エンジョイするのもほどほどにしておかないとと思ったのだった。



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