ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

東京版の「モネの池」は小規模だが、人間関係が苦手な人におすすめの穴場である

名もない池が「モネの池」と呼ばれるようになり、観光客でごったがえしていることはご存知のことと思う。モネの『睡蓮』そのものの風景で、モネ先生は、さんざん自分をインスパイアしてくれた国の大衆に、自分の絵が現実の風景に匹敵しているかのように言われ、ローズマリーが繁茂する草場の陰で泣いているのだろうと思うのだけれど、先生の気持ちは脇に置いておくとしても、モネの池は東京人にとっては難攻不落の要塞である。電車とバスなら6時間以上かかってしまう。そして尻の形が変わるほど乗り物に乗ったあと、東京人を待ち受けているのは、美しい風景と、スマートフォンを片手に写真を撮りまくる人々の群れ。これだけ多くの人がいまSNS映えする画像を撮っているのだから、改めて自分が投稿するまでもない、という気持ちになってしまうに違いないし、人間関係が苦手な人にとってみれば、これは仕事とどう違うのかと考えこんでしまうに違いない。

 

―とはいえ、いったん「モネの池」の画像を見てしまうと、一度喚起されてしまった、「池の中で魚が優雅に泳いでいるところを見たい」という欲求をなかったことにするのは難しい。tinyでもいいから、モネの池のような感じの風景が近くにないものか……と思って調べていたら、都内にピッタリとくる場所を見つけた。しかも、2つの池が近接して存在していて、最寄り駅は同じである。
 
前置きが長くなってしまったけれど、今回の首都圏穴場シリーズは、東京のモネっぽい池である。最初に断っておくと、期待しすぎるとがっかりするかもしれないので、不審に思ったら、ただちに「東京なのにすごいなー」と思いなすようにしながらお出かけいただきたい。
 
今回の舞台は東秋留駅。駅を降りて3時間程度の旅になるが、東秋留駅には11時より前に到着していることが望ましい。なぜなら池に行く前にゆかいなお店でブランチをキメるからである。
 

【今回のルート】

(1)花がき(2)秋川ファーマーズ・マーケット(3)二宮神社(4)舞知川(5)八雲神社

 

 
駅を降りて、西に歩いていくと、東京とは思えない大規模な畑がある。

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23区外だと、小規模な田畑を見かけることはよくあるが、ここまでの規模の畑はめったにない。
 
オーナーが多いのか、区画ごとに畑のカラーはまったく異なる。

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新聞の隅っこのおもしろ記事を飾りそうなニンジン。
 
畑に沿って歩いていくと、突然、典型的な「地方にある和食の店」が現れる。オアシスのようである。
この店の名は「花がき」インターネットでの評判はふつうなのだが、この店の桃源郷ぶりはおそらく地元の人には知れ渡っており、ランチタイムには混雑する。だからこそ、遅くともこの店に11時半には着いている必要がある。

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この時間帯であれば、まだ満席になってはおらず、ひとりで入っても気まずさはない。
 
メニューを見ていたら、歩けなくなるくらい食べたいという気持ちになり、肉汁うどんの特盛をお願いした。そして、野菜も摂らないとよくないかなと思い、野菜の天ぷらもお願いした。
先にきたのは野菜の天ぷらで、480円だったので、つまむ程度なのだろうと思って頼んだのに、量がおかしい。
 

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そして、この野菜たちは、言うまでもなくこの近辺で採れた野菜たちだろう。畑の情景はこの店に入るためのプロローグだったのだ。
 
しかし、この時点でかなり満腹に近くなってしまった。
野菜天ぷらのボリュームから肉汁うどんの特盛の量を類推し、震えながら待った。
 

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大きさがよくわからないと思うが、手前の鉢は、ラーメン鉢くらいの大きさである。
ワイルドな肉汁。スープのすみずみまで肉の味がする。そして麺は、量もさることながら、眩しく輝いていて官能的である。
なめらかな喉越し、ほどよいコシが素晴らしく、あっという間に吸いこんでしまった。
 
食べている間にもどんどん席が埋まってきたので、早々に退散。
忘れそうだが、いけてる池(注:駄洒落です)を見たくて来たのであって、ごはんはあくまでもおまけである。
 
食べ終えたら、畑に沿って歩く。
巨大な直売所を発見。秋川ファーマーズマーケット。

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周辺の畑の状況どおり、充実した品揃えである。
 

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ハーヘキューのコーナーもある。
 

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話がそれて申し訳ないが、この店構え、抜群にかっこいい。次はここに寄りたい。
 
 
目的を見失いそうになってきたが、まず目的の1つめは二宮神社の付属の池。
神社自体見どころが多いのだが、話が長くなって終わらないので、二宮考古館の巨大な石棒の様子と、トタンが美しい倉を紹介するにとどめておく。

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この石棒、先端が実物に似ていないことがおわかりかと思うけれども、こういう形状なら、より五穀豊穣になると想像して作ったのかなと思ったのだが、五穀豊穣につながるかどうかは、男であるわたしにはわからないので、倉庫の紹介に移らせていただく。
 

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この倉に何が入っているか知らないし、中を見ても驚くようなものは入っていないだろうけれど、この外観はベスト・トタン・オブ・ザ・イヤーである。
 
横からも見たい……という、わたしの頭の中にいる妄想上の読者の声に応えて、横からの写真も載せておく。

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他がすばらしすぎて本殿に関心が持てず、多少申し訳ない気持ちである。

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創建がいつかは不明だが、いまの本殿は江戸時代で、中は室町時代。

そもそも「二宮神社」は、武蔵国の二ノ宮にあたるので、一ノ宮にあたる、聖蹟桜ヶ丘の小野神社とともに、武蔵国の住人としては一度は訪れておくべき神社である。

 

 二宮神社を出て、道路の向こうに池がある。 f:id:kokorosha:20171107214757j:plain

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池の脇から、水がこんこんと湧いている。写真でもたしかに水が湧いているとわかる。水にありがとうと言っていると、こういういいことがあるのだろう。言ったことはないけれど……。
 
モネの池のように、肝心の睡蓮はないが、武蔵野台地の清水の中を優雅に泳ぐ鯉たち。

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この池、ほとんど人がいない。ごくまれに、餌をやっているファミリーがいるときがあるが、餌を撒き終わったらすぐ帰っている。たしかに、ただ泳いでいるだけで長時間見ても仕方ないのかもしれない。こちらとしては仕方あるのだけれど。

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これだけ影がはっきり映っていたら、自分がカメなら影を見間違えて「ハハーン、オレ様に惚れたカメが水底におるわい……」と思ってしまいそう。
 
わりとどうでもいい扱いを受けがちなミシシッピアカミミガメだが、ここでは爬虫類の代表として優雅に泳いでいる。
インターネットがつながりたてのホヤホヤのころは、女性が珍しく、インターネットレディたちは世の女の代表として男たちに女とはどういう生き物なのかについてあれこれご教示くださったものだが、2017年の今もたまにそれをしている女の人を見かけて感動する。
 
 
 

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写真を撮らせてもらう立場で言うのも申し訳ないが、ちょっと一箇所に集まりすぎ。

 

 

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雨乞いの像があるのだが、局部の枯れ葉がそういうマンガのようで笑ってしまった。
そいうマンガ、一応局部に細い線を引いているのだが、まったく隠されておらず、あれでお咎めなしなのは、いいことだと思うけれども謎である。

 
池が小川になっていて、小川沿いに歩いていると、三島かどこかに来たような気分になる。

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なんだか、さきいかのパッケージがゴミに見えない。
 
この小川を見ながら、次の目的地に向かう。
 

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小学校沿いの舞知川。川に感情移入しすぎて「いつまでもきれいでいたい」と代弁するに至ってしまっていて愛らしい。
 

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そして、モネの池パート2は、八雲神社の池である。こちらをあとにしたのは、よりモネらしいからである。「モネらしい」とか言ってしまってモネ先生ごめん……。
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こちらの神社は公園や休憩所と地続きになっていて、社殿は鉄筋。
しかし池はこのようにモネ状であり、そのギャップに興奮するのであった。
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鯉の中には背中が極端に曲がっている者もいるが、たくましく泳いでいる。

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筆者を筆頭に、猫背率が高いと思われる弊ブログの読者のみなさまにとっても親近感がわくはずだ。
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透明度が高すぎて、鯉の顔もよく見えるが、鼻が目のように見えて気持ち悪いのもたしか。見えすぎるのも考えものである。
 
この池もやはり、ほとんど人がいない。集中力を最高に動員して凝視していると、だんだん、「核戦争後に人類は自分以外のすべてが滅び、下等動物たちの楽園となった……」みたいな気分になれる。なれてうれしいかどうかは別として……。
わたしが近所に住んでいたら毎日遊びに行ってしまうことだろう。
 
ぼんやり見ていたら、近所の親子がパンを撒きにきたので、敬意を表してパンを撮影した。

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岐阜のモネの池に比べると植物成分が不足気味だけれど、何もない週末に中央線にぶらっと乗って行くには最高の楽園である。
 
 
単体で遊びに行くのが不安な方は、朝早めに秋川渓谷に行って、その帰りに寄り道するという手もあるので、ぜひとも行ってみていただきたい。