ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

スーパーのお寿司でも専用のステージを与えれば魂のレベルが上がる

そこそこ残業し、仕事を終えて立ち寄ったスーパーマーケットでわれわれを待ち受けているものといえば、半額のお寿司。定時であがった場合に待ち受けているのは10%オフのお寿司であり、そこそこを超える時間帯まで労働力を販売してしまった場合は、お寿司コーナーは空になっている。なお、あってはならないことだが、労働力を販売することなく退社時間が遅くなってしまった場合は、財布の中が空なので、そもそもお寿司コーナーを確認する必要がなくなる。これはお寿司に限った話ではなく、人生に共通するひとつの概念が、かわいらしいお寿司の形をとってわれわれの前に姿を現しているのだが、その話をすると長くなってしまうので、ここでは、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という使い古された教訓を復唱するにとどめておく。


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半額のお寿司を見かけてしまうと、われわれは自動的にカゴの中に入れてしまう。半額のシールが10%などの中途半端な値引きのシールの上にズレた状態で貼ってあると色気さえ感じられる。
もともと安いお寿司をさらに半額で求めるのか、あるいは、上のお寿司を、並のお寿司並みの価格で求めるのかは自由だが、問題はトレイおよび、それにあしらわれた模様である。
たとえば、肉たちは檜をイメージした木目調のトレイにのせられていることが多い。


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これは国産の牛肉の例である。同じ売場の、牛豚の合挽肉は白のトレイだった。別の種族と運命をともにしたうえに、無機質なトレイにのせられるなんて、とてもかわいそうだ。
中央にあるサラダ菜の写真が気になるかもしれない。思いだしてみると、かつてこのポジションにあったのは、生のパセリだった。つまり、本来はサラダ菜を置きたかったのだが、すぐに茶色くなってしまうなどの理由でパセリが起用されることになったものの、昭和が平成になり、そもそも鮮度の優等生であるパセリですら、永遠不滅のプラスチック片の鮮度と比べるまでもないという事実に気づき始めた精肉業者が、サラダ菜の写真の採用を始めたのだった。パセリがかわいそうである……。と嘆きつつも、サラダ菜の写真をもっとよく見て野菜不足を解消したいと思っていらっしゃる方のために、正面から撮った写真も掲載しておこう。
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サラダ菜の写真の件はともかく、お寿司についても、トレイにのるなら木目のトレイにのっていてほしいのだが、実際、どのグレードのお寿司を求めたとしても、持ち帰りのお寿司は、yosakoi模様があしらわれた漆黒のトレイに鎮座している。


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この事象には理由があり、出前のお寿司のお盆を模しているからだと思われ、さらに出前のお寿司のお盆はなぜ黒なのかというと、むかしは漆器が使われていたからで、さらになぜ漆器を使っていたのかというと、無垢材のお盆だと汚れやすいからだと思われる。
根拠らしいものがあるにせよ、あまりにもyosakoiである。たとえ半額のお寿司であったとしても、食卓はyosakoi的であってはならないし、少なくとも、文化的にニュートラルな状態であってほしいと願うわれわれの感覚からすると、端的に言って、食欲の湧かない模様である。
わたしも最近までは、「この模様はどうなの」と上の口で不満を述べながら、同じく上の口で食べていたのだが、このままではいけない……やはりお寿司にはお寿司のアレが必要なのではないかと思いはじめた。

参考までに述べておくと、北欧ナントカ市で購入した古めのお皿に載せると、カフェ風味になるが、カフェごはんの欠点―しゃれているだけであまりおいしくないことが多い―も含めて、カフェ風味になってしまうので、あまりおすすめできない。
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犬には犬用のガムが必要なように、やはりお寿司にはお寿司のアレが必要である。
これがスーパーマーケットで求めたお寿司を、お寿司のアレの上に載せた状態である。
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やはりしっくりくるし、お寿司屋で食べているような気分になる。口に入れてしまえば同じだと思っていたが、味覚というのはいいかげんなもので、見た目が変わると気分が変わり、味までよくなったような気がするものである。スーパーマーケットで買ったお寿司がおいしくないのなら、せめて見た目には気遣うべきだと気づいた。

なお、お寿司のアレはAmazonなどでも買えて、およそ1,200円で入手可能。半額のお寿司を2回買ったらペイできる金額であり、半額のお寿司が半額でないお寿司のような気持ちで食べられると思えば、あっという間に元がとれる。


お寿司のアレが正式にどう呼ばれているかは知らないし、知る必要もないが、やはりお寿司にはお寿司のアレが必要なのだ。


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