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ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

『ソープへ行けと彼女は言った。』のニューバージョン

先月末、『文學界』の新人賞に応募しました。今から20年後、50歳を過ぎたサラリーマンが部下に背負われて高尾山に捨てられる…という時事問題チックな話を書いたのですが、そろそろ神様は私に新人賞をくださってもいいのではないでしょうか?私はいかなる検閲や改ざんにも文句一つ言わない、とてもよい子なのですから!
次回はどこに出すか決めていませんが、氷河期世代が各地で挙兵して戦っているところに天照大神がブレイクダンスを踊りながらやってくる、という感じの小説を書きたいと思います。


それはそうと本題です。
「主人公が最初に言われた屈辱的な台詞とまさに同じ台詞を、最後に主人公が勝ち誇って言い返す…というオチが予想外すぎて最高!」と評判のショートショート『ソープへ行けと彼女は言った。』ですが、皆さん読まれましたか?ぼくも最高だと思ったので、自分でも書いてみようと思います。

心をこめて「好きです」と言ったのに、あの女は、「ソープへ行け」と、蚊に刺された痕を掻きながら言ったのだ。
その瞬間、全身の血が沸騰するような怒りに襲われた。ただし、私は長年の不摂生がたたっており、血の粘度がとても高い。沸騰しても、外から見るとあまり沸騰していないように見えるという利点を生かして平静を装ったのだが、この怒りは自分だけの怒りではなく、万世一系の怒りであるように感じられた。彼女の声が頭の中でこだまする中で、誰のものかよくわからない記憶が頭の中を占領し始めた。


「ソープへ行け…」
真剣に人生相談の葉書を送ったのに、北方謙三先生には一言で片付けられた。しかし、ハードボイルド小説の作者の言いつけを守らなかったら蜂の巣にされそうな気がしたので、渋々言いつけに従った。写真とだいぶ違う女に「北方謙三に言われたから来ちゃった」と小首を傾げてみるが、「誰それ?」とつれなく返され、心もペニスも萎縮してしまう。


「トルコ風呂へ行け…」
トルコ人たちの迷惑そうな顔。「モチロン、人間デスモノ、セックスハ嫌イデハナイ…ト言ウカ、ムシロ好キデスガ、コノ名前ハ差別デハナイデスカ?」
そう詰め寄られたら名称変更を考えねばならないが、「スッキリ風呂」「温泉じゃないけど疲れがすごく取れる之湯」など、思いつく名称のすべてを警視総監にダメ出しされ続けた。


「慰安所へ行け…」
一日の仕事を終え、コンドームを泣きながら洗う慰安婦たち。明日もこれを使うのか。余りにも大量に精子を見たので、肉眼で一匹一匹が確認できるようになってしまったが、日本兵の健康を確認したところで何もいいことはなく、明日も汗臭いオッサンたちに抱かれるだけの話である。


私が30歳を過ぎても童貞であることの理由の一つに、「性的な妄想をしている中で、いつのまにか自分が女役になって可愛らしいあえぎ声を出している」というところがある。これは、「私は女性の気持ちがわかる紳士である」と自認しているのだが、女たちからは気持ち悪がられるだけだろう。しかし、年がら年中、性的な妄想に耽っていると飽きがきてしまうので性別を変えるなどのダイナミックな変化が必要なのである。
性について二十四時間体制で考えている私が童貞だというのはあまりにも逆説的だ。考えすぎるのがよくないのであれば、別のことを考えてみればいいのだろうか。試しにテレビに映っているアメリカの大リーグに意識を集中してみたが、バットがただのバットであるようには見えないし、グローブが単なるグローブであるとも思えない。セックスから離れたくて野球を、しかも日本野球よりもヤクザ臭がしない分健全であるはずの大リーグを見ているのに、セックスのことしか考えられない。もうだめだ!と、外に飛び出し、無心に走る。いや、無心というのには偽りがあった。私は前から目をつけていた三千円のピンサロを確実に目指していた。角を曲がるときも大回りすることのないように早めに体を傾ける周到さ!ピンサロとは、ソープの十分の一の価格で性を謳歌できる夢のスポットと聞く。ドアの前まで行くと、老人が優しく迎え入れてくれた。


「いやぁ…初めてですかお客さん。」
「は…はい」
「最近は格差社会、ということかもしれないのですが、ソープへ行けってアドバイスされたのにこういう店に来る客が増えているんですよ」
「ひどい世の中です。善良なサラリーマンが気軽に女一人も抱けないなんて…」
私は自分の理解者が現れたと安堵し、思わず本音を口走った。
「そうですよね。そこで私は考えたのです!風呂の中でソープ嬢の映像を見たら、ソープに行ったことと同じになるんじゃないかと!こっちの方がピンサロより絶対いいよ!」
店主が自信たっぷりに風呂場に招き入れ、ビデオのスイッチを押し、風呂場のドアを閉めると同時に、古びたブラウン管から裸の女が現れた。ビデオでソープ嬢がローションだらけで腰をくねらせているのを見て私はたちまち勃起した。迷わず右手を添え、しごき始めた。


店主がビデオカメラを抱えて風呂場に入ってきた。
「撮ったよ!DVDで撮ったよ!これをお前の母ちゃんに見せてやる!お前の家にDVDがなかったら再生機もセットで売りつけてやる!」
店主は勝ち誇った表情だったが、今の私にとっては、薄汚れたブラウン管に写っているソープ嬢がすべてだった。母親にDVDを見られても、しばらく気まずいのに耐えれば大丈夫だ。人の噂も七十五日。それが家族の間であれば、五分の一程度に短縮されるという話を偉い学者がしていた。私も、このオナニーが終わったら、そんな偉い学者を目指してみようかな、と思った。偉くなれれば、ブラウン管の奥から、ソープ嬢が愛の告白をしてくるに違いない。

最後まで読まれた方、申し訳ありません…そしてありがとう!