ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

サーフィンに興味のない文化系のオッサンにとっても、茅ヶ崎の海辺は面白い

東京の西の方に住んでいるのだが、「可及的速やかに海を見たい」と思った場合、どこに行くのが一番よいのかを模索中である。いくつか候補があるのだが、そういえば、江ノ島や三浦半島には行ったことがあるが、茅ヶ崎に行ったことがなかったということに気づき、取材班(わたしとカメラとレンズ3本)は茅ヶ崎へと向かった。

茅ヶ崎へのルートは、可能であれば京王線で橋本まで行って、相模線に乗り換えるのがおすすめである。よく地方にある、ドアの開け閉めを自分たちでやるタイプの電車で、かつ、単線で、いくつかの駅で待ち合わせが発生し、おまけに茅ヶ崎が終着駅なので、旅行をしている気分になれるのだ。

駅から海岸への道は大変わかりやすい。南口から出て南下するだけである。

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神奈川の海沿いの街はあまりにも健康的で性格の暗い者にとっては眩しすぎるのだが、この、自分がお呼びでない感じも好きだ。

レストランのような民家がたくさんあって紛らわしいのだが、ひとつ気になる店を発見した。「コッペ屋」という、コッペパン専門の店である。店内は日本向けにローカライズされたサブウェイのようなたたずまいで、「コッペパン=給食のパン」という記憶を持っている人にはとくにおすすめの店である。ワンコインでコッペパンの記憶をまるごと塗り替えるのだ。さまざまなオプションがあり、その数30種類以上なのだが、わたしはマーガリン&いちごジャムと、そして、焼きそばパンを購入した。マーガリン&いちごジャムは破格の190円である。
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これがコッペパンのご尊顔。昔食べていた茶色い見かけとまったく違い、ビニール越しにもふんわり感が伝わってきて、もっとよく見たいと焦れてしまう。

防風林が見えたらそこは海岸である。
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そして、防風林には砂よけのネットが張ってあり、キミたち防砂林の役もしてくれるんちゃうのと思ってしまった。

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そして、想像していたよりもサーフィンをしている人が多かった。
海岸というよりもサーフィン場である。

ここで、可及的速やかに海を見たいと思ったときに行く場所として考えるのは諦めることとした。
ここは、心を落ち着ける場所ではなく、文化系のオッサンにとっては完全に外国であると思った方がよくて、海外旅行のような気持ちで楽しみたい。
そして、買っておいたコッペパンを取り出す。
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これが焼きそばパンである。焼きそばにピントが合ってなくて焼きそばに申し訳ない。
ずいぶんと白い。焼きそばパンといえば、体育会系の部活の先輩が後輩に買ってこいと命ずることでお馴染みのアイテムで、わたしはそのような部活に入ってはいなかったのだが、焼きそばパンのことが嫌いになってしまった人は多いのかもしれない。あるいは、上級学年になってからは、焼きそばパンを買ってくる立場から華麗に転身を遂げて、焼きそばパンを買ってくるように命ずる立場になり、卒業するころには、ふたたび焼きそばパンのイメージがよくなっているのかもしれない。

給食のときに食べていたコッペパンはパサパサしていたが、これはふっくらと柔らかい。香ばしさやクリスピーな食感を求めるのではなく、ソフトな食感を楽しむためのものであると理解した。給食のパンがこれなら、おそらく肥満児になっていただろうから、あのときのパンはあの味でよかったのだと思う。

……などと思いながら食べていたら、突然背後から衝撃を受けて、パンが消滅した。
あまりの速さに何が起きたのかがわからなかったのだが、わたしが手に持っていたパンが2メートルほど先の砂地の上にあるということ、右手が少し痛いということから、トンビに背後から襲撃されて奪われたことを悟り、これは面白いと思い、急いでカメラを構えた。襲撃から30秒もしないうちに撮影したのがこれである。
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どうやら、トンビが一部を持って行ったらしく、残りが砂の上にあり、それをカラスが狙っている。
薄々、朝からコッペパンを二つも食べるのってどうなのと思ってもいたので、トンビに奪われたなら、納得度は高い。

家に帰って写真をよく確認してみたら、犯人のトンビが手にしたのは、焼きそば1本にすぎなかった。
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危険を冒した報酬として太めとはいえ焼きそば1本とはご愁傷様である。

カラスは頭がよいといわれる。少なくとも、このパンの所有権は1分ほど前にはここにいる茶色いシャツを着た人間に所属していたことは認識しているのだが、その人間にとってこのパンの残骸が今も大事なものであると思っているようで、じりじり間合いを詰めながらパンを奪おうとする。つまり、「人は砂だらけのパンを食べたりはしない」ということまでは学んでいないのであった。
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しかし、このパンの汚れぶりを見ると、本当にさっき食べていたパンなのかと思ってしまう。

このまま次のパンを食べるとまた奪われてしまうと思ったので、ゆかいな食事はいったん中止し、観光を始めることにした。
海沿いに、江ノ島の方向に歩き、茅ヶ崎の隣の辻堂から帰るプランである。

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茅ヶ崎から辻堂まで、まんべんなくサーフィンをしている人がいる。
サーフィンの中にボディーボードも混じっていると思うが違いがわからない。


そして、この、通称「ヘッドランド」は、上空から見るとシュモクザメの頭のようになっているところで、ここより沖にサーファーが行くことはない。

ここから海を眺めると、江ノ島などにいるのとほとんど同じ気持ちになれる。
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見覚えのあるタワー……と思ったら江ノ島。
遠くから見ると人がいないように見えるものだなぁ……。

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案外、奥まで入っていいんだな……と思ってしまった。
しかし、過去に死亡事故があったらしい。

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海岸には、かなりの頻度で掃除のボランティアの人がいる。
おかげでゴミをほとんど見ることはない。
人だらけなのにゴミがない、不思議な風景である。

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ゴミらしきゴミといえばこれくらい。
昔はこういうのを見ると、無条件に外国から流れてきたと思ってロマンを感じていたが、最近は外国からの観光客が多く、単にマナーの問題にすぎないのかもしれない。


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サーフィンに来る人の何割かは、このような自転車で来る。
U字型の金具の意味が最初はわからなかったが、これはサーフボードを挟むものである。
ここに自転車で来ている人の中には、サーフィンをするために茅ヶ崎に住んでいるのだろう。
来世では趣味のために居住地を定めるような暮らしをしたいと思う。

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アサガオのような花はハマヒルガオで、毛みたいな実のついた植物はコウボウムギ(弘法麦)である。
触ってみると毛のところが脆く、筆として使える感じがしなかったのだが、馬の毛などは高級だったので使いづらい筆を使って習字をしていたのだろうか。タイピングが主となっている今となってみれば、そんなに必死にならなくてもいいのでは……という気持ちになってしまう。

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中華料理が好きなので「黄ニラ……?」と思ってしまった。

浜辺に飽きたら適宜防風林に移動して、防風林に飽きたら浜辺に戻る……を繰り返す。
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トンネルのアートワークの主旨がわからないものがあって面白い。
こういう絵を見ると、いわゆるグラフィティの方がよほど保守的だと思う。

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ここでわたしが見出した唯一の自然がこれなのだが、とくに珍しくもない魚の骨なのだろうと思う。

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来て2時間くらい経って、「ふつうの海よりも波が高いな……これはサーフィンなどに向いているのでは?」と当たり前のことにやっと気づいた。



人を見すぎたと思ったら、海浜自然生態園に行くとよい。
入り口が難しいのだが、土木事務所から入る。

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太陽光パネルが無造作に置いてあると、環境に配慮した結果置いたはずなのに、「環境問題……」と思ってしまう謎。

生態園には、防風林や砂地の植物が植えてあるのだが、あまり整備に積極的ではないらしく、実際どこに何があるかわからない。ここにあるパネルの
内容を記憶してすぐそばにある防風林や砂地をwatchすれば事足りるように思うのだが、人が少なくて落ち着くのでありがたい場所である。
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奥にはラブホテルがある。
こういう何もない感じの植物コーナーに行ったあとに立ち寄ると獣のようになれていいのかもしれない。

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大きな日除けで、サーフィンをする人、走る人を思い浮かべ、ろくな運動もしていないのに残りのパンを食べた。
太るための食事……劣等感にまみれながら食べるマーガリンとジャムのコッペパンは柔らかくておいしかった……。

さらに東京側へ向かうと、辻堂海浜公園がある。
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ここは、あまりにもファミリーが多すぎて、ひとりだと大変居づらい。居づらさにエンターテインメント性を見いだせる方におすすめである。

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芝生があるが、テントが多すぎて、せっかく公園に来たのにマンションに住んでるみたいになっていて楽しい。
実際のところ、広いところがそんなに好きでもない人も多いのだろう。


そして、公園内には「交通展示館」があり、ここには昭和のちびっこたちの夢がそのままの形で保存されていて、未来の展示というよりも考古学のようで、ゆかいな気持ちになれる。

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たとえば、この超電導電磁推進船「ヤマト1」は、実用化に失敗してしまったし、神戸に飾ってあった実物すら撤去されてしまった。しかし、昭和のちびっこがかっこいいと思う要素が凝縮されていてほれぼれする。

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自動車を半分に割って立てるという斬新な展示方法に感激する。

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これと同じような構図を見たことがある……と思って記憶の糸を辿ってみると、靖国神社の就遊館に展示してある特攻機「桜花」だった……。




通称「サーファー通り」を通って辻堂駅から東京へ向かった。およそ5時間の旅だった。
サーフィンや海水浴に興味のない文化系の人にとって、茅ヶ崎はピンと来ないかもしれないが、行ってみるとパラレルワールドに迷いこんでしまったような心地よい戸惑いに包まれて、また行きたいと思った。