ココロ社

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金木犀の臭いが苦手なので三嶋大社に決着をつけに行った

金木犀の臭いが苦手な理由はひとつではなくて、幼きころに好きだったため、木に顔をつっこんで何度も深呼吸しているうちに気持ち悪くなってしまったことが最初の記憶で、乗り物酔いをしやすい方で、バスやタクシーの芳香剤の香りによって酔ったときの気持ち悪い感覚が誘起されることもあるし、秋の始まりを認めたくないという気持ちもあって、解決が難しい。
ただ、桂花烏龍茶は常備するほど好きではあるので、「生理的に無理」ということではないと思っているし、そもそも「生理的に無理」という表現が生理的に無理……。

 

あと何回この臭いと対決することになるかはわからないが、金木犀の臭いが苦手な自分をなんとかしたいという気持ちがあり、金木犀に対してのよくない記憶を一掃し、はじめましてという気持ちで金木犀とつきあいなおすため、10月1日に三島に向かった。

 

三島はひかりで行けば東京駅からは30分程度だが、新幹線を使わず多摩ニュータウンから行っても2時間程度しかかからないので、日帰りでちょっと遠出するなら最適だが、今回は金木犀と決着をつけるためなので利便性などはどうでもよく、たとえば博多からだと羽田まで飛行機で行ってからひかりで戻れば4時間かかるが、もし博多にお住まいの方で同様に金木犀と決着とつけたいとお考えの方は三島に来るべきである。なぜなら三嶋大社にある金木犀が樹齢1200年の御神木だからで、この神をたしかめることで、今後の金木犀とのつきあい方が決まるのだから、片道4時間はむしろ近いと思うはずである。また、三島ではあちこちで富士山の雪解け水が湧いていて楽しく、駅を出たところで地味な噴水を目にして、来てよかったと思うはず。

 

三島駅から三嶋大社までは歩いて15分程度だが、地図での最短距離だと三島のよさを十分には享受できない。白滝公園を経由して行けば、湧水の流れにそって三嶋大社まで行ける。

たとえば三島には2時間しかいられないという特殊な事情が発生したとしても、駅~白滝公園~三嶋大社のルートを辿れば濃縮された三島体験ができる。

梅花藻の花がいくつか咲いていた。ピークは8月なので望外の喜び。そして鳴いているセミもいたので三島は常夏なのかもしれない。

 

三嶋大社の大鳥居。三嶋大社の金木犀は2キロ先まで薫っていたらしいが、この時点では特に薫っていない。

 

神池。水がきれいといっても、池のように水が停滞しているところは澄んではいないこともある。

 

地図を見ずに、金木犀の香りを頼りにして御神木にたどり着きたいと思ったのだが、早々に諦めて本殿の方向に向かった。御神木なのだから本殿に近いところに植えてあるはずである。

 

神門をくぐると、右手にあった。

思ったよりもごちゃごちゃしている。わたしの想像の中では、ブロッコリーを限りなく大きくしたような木が1本だけ生えているイメージだったが、集団になっているようである。解説を読んだところ、中央にある木が樹齢1200年の御神木で、まわりの木は御神木を苗木とした後継らしい。

 

ご紹介が遅れましたが、本殿は重要文化財でございます。

 

御神木に話を戻すと、大部分がしだれているが、枝はたくましく上に向かって花を咲かせていて感動した。

 

―とはいえ、樹齢1200年だけあって老朽化が著しく、後継を作ったのは正解だろう。先端が沖ノ鳥島のようになっている。

 

また、根本もなかなかスリリングで、御神木だけあって魂だけで咲いているのかもしれないとすら思う。

 

後継が何本もあって、Xデーがきたときにどのようにするか興味がある。御神木群みたいにするのだとは思うが、そうなるとどれを拝んでよいのかわからなくなる。八百万も神がいるのだから3~4神が同じところにいる金木犀だったとしても問題はなさそう。

近づいて見てみると薄い黄色で上品な印象である。それもそもはず、天然記念物として登録された名前は「三嶋大社の金木犀」なのだが、学名はウスギモクセイ(薄黄木犀)で別の種なのだった。


「薄い黄色で上品な印象」と書いてしまうと、「色が濃いとふしだらなのか!」という反論が来そうだが(来そうにないが)、人体の色素と植物の色素は分けて考えたいと思っている。そして、香りは金木犀とほぼ同じだが、きつい印象はない。近づいて深呼吸してもむせ返ったり頭痛がしたりせず、ほどよい香りである。

しかし、ふだん接している金木犀と、御神木の金木犀が別の種だとわかると、「薄黄木犀の香りはよいが、金木犀の香りは下品。俺は本物がわかる」などと思ってしまい、三島まできて、金木犀への憎悪が淡黄色のエコーチェンバーの中で偏見が悪化しかねない……が、心頭滅却して、金木犀もまた神様のようなものだと思いなすことにした。

 

かくして、40年以上にわたるわたしの金木犀への嫌悪感は和らいだ。「気持ちが悪くなるときにセットになって登場する臭い」という記憶を、樹齢1200年の御神木の香りに塗り替えることができたような気がする。

 

秋の到来を穏やかな気持ちで迎えられるようになってよかった。金木犀の香りが嫌いな方におかれましては、来年9月下旬~10月上旬の三島行きをおすすめいたします。

 

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