ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

西東京民の私は立川のIKEAでザリガニを食べてスウェーデンに想いをはせる

東京都多摩市に住んでいるが、ここ2年で仕事以外で都心に行くことがほとんどなくなってしまった。それより前から徐々に店頭での買い物から通販に移行していたのだが、疫病が蔓延するようになってから、ホットスポットであるところの23区へのハードルが格段に高まってしまった。買い物などをする場合でも、23区まで行かずに、西東京の中核都市、立川・町田・八王子などで済ませている。実際に測ってみると、新宿や渋谷に出るのと5~10分程度しか変わらないのだが、混雑の度合いが違うので立川でいいや……と思う。そして、立川「で」いいやの気持ちは、いつしか、立川「が」いいやの気持ちに変化した。都民以外にはわかりにくいかもしれないが、立川・町田・八王子は、それぞれ地方の県庁所在地くらいの規模があるので、そこになかったら通販で買おう、新宿や渋谷だと必ず納得のいく買い物ができるという保証もないし、と思うのである。

 

いつしか、わたしは東京都民から西東京民になった。仕事を除いて東西方向に移動することはほとんどなく、南北に半径10キロ圏内で暮らしている。リモートワークで出社の機会も減ってしまったので、移動のスケールだけでいうと近世以前のような感覚である。ときどき23区のキラキラした思い出が脳裏をかすめる。キラキラしたといってもウズベキスタンの、ラーメンとパスタの中間のようなラグメンのお店や、パオの中にあって羊の肉の塊をかじるモンゴル料理店などだが、そんな尖ったお店は多摩市では受け入れられない。多摩市の外国人比率が高まったらチャンスはあるかもしれないが、日本はまだ外国人から見て住みたいと思える場所なのか非常に疑問だが、それはともかく、夏になると思い出すのが赤坂のレストランストックホルムのスモーガスボード……要はスウェーデン料理の食べ放題で、ザリガニの季節に合わせて行ったのだが、サーモンのマリネがおいしすぎてサーモン食べ放題にしてしまったのだった。ザリガニも、「けっこうおいしい」と思ったのだが、時が経ちすぎて記憶の中にも「けっこうおいしい」の文字情報だけしか残っていない。そろそろどんな味だったかをたしかめたかったが、お店は閉店になってしまっていたし、仮に開店していたとしても、もう赤坂はわたしにとっては別の国である……。

 

そんな中で、IKEAでザリガニ料理を期間限定で供しているという情報をキャッチした。西東京民のわたしにとってIKEAといえば立川。そして、長崎ちゃんぽんを食べたいと思ったらリンガーハットであり、たこ焼きを食べたいと思ったら銀だこ、ハンバーガーを食べたいと思ったらバーガーキングであるのと同様、スウェーデン料理を食べたいと思ったらIKEAが最適解になる。たとえば、同じくIKEAがある地域にお住まいの方も同じ感覚だと推測している。

 

立川のIKEAの本当の最寄り駅は多摩都市モノレールの高松駅なのだが、街の発展を実感しながらIKEAに向かいたいと思ったので、少し遠い立川北駅で降りた。

IKEAのレストランの混雑ぶりが想像できなかったので、念のため16時に到着するようにはかった。

 

ここは以前は空き地で、ヤギが除草に従事していた。ヤギは過剰な期待さえしなければかわいらしいのだが、いっぽうでこんな広大な空き地大丈夫なのと思っていた。やはり大丈夫ではないと思われていたようで、グリーンスプリングスという未来の複合施設が作られた。

 

これは5年前、ヤギが帰ってしまったときの写真。このときはわたしもネンネだったので、巨大商業施設ができるなんて想像していなかった……。

 

駅から10分ほど歩いてIKEAに到着。グリーンスプリングスが空き地だったころは、かなり遠くから見えていて、歩みを進めるごとに大きくなってきて、IKEAどこまで大きくなるのよ!と思っていたのが懐かしい……。

 

せっかくIKEAに来たので棚も見ていくかと思っていたのだが、先にザリガニを食べてからと思ったので、入口からすぐレストランに行けるショートカットを利用した。

行くのが久しぶりすぎてシステムを完全に忘れてしまったので、若い男女の後ろについていくことにした。システムは簡単で、皿の上に好きなものを載せて、最後にお会計をすればいいだけでだった。しかし知ったかぶりして恥をかくよりは慎重に行動した方がいいのだ。


そして若い男女はケーキをとっていて、喫茶店として利用したいのだな、まあそれが普通だなと思ったのだが、その「普通」から遠く隔たったところにいるザリガニは……ない。立川にはザリガニは早いと思われているのかな、横浜はススンでいるイメージがあるけど、港北のIKEAはザリガニ一色なのかな、などと思っていたが、よく見ると2皿だけあった。急いでトレイに載せた。誰も続くものはいなかったが……。そしておまけたちも添えてお会計を済ませて着席。

 

毎回思うのだが、IKEAのトレイは満腹になるまで食べる想定ではないように思える。たしかに食べすぎたあとに家具を見ても全部ベッドに見えてしまうので、買い物の途中の軽食という位置づけなのだろう。あるいは単にスウェーデン人が少食なのかもしれない。

今回も魅惑のアイテムがトレイからはみ出て、席に運ぶまで大変緊張した。これを毎回繰り返していると、いつか床にぶちまけてしまう……と思うのだが、数年に1回くらいのペースなので、危険性が高くても試行回数が少ないので何も起きないだろうとは思う。

 

まずは定番のサーモンのマリネと5年ぶりに親交を温めあった。いつも1分と持たずに食べきってしまうのだが、改めて写真を見るとディルがまぶしてあって、おいしさの秘密はこれね………と思った。右上のソースにもディルがまぶしてあって天国である。

 

スウェーデンミートボールも健在であることを確認。甘いジャムとクリームソースをつけて食べる。相変わらずおいしかったが、スウェーデンのオッサンはジャムだけをたっぷりミートボールにつけて食べるのかもしれないと思ってそうしてみたら、あまりにも未来的な味がしてついていけなかったので、すべて混ぜて食べるのがよいのだと悟った。スウェーデンの人が実際にどう食べているのか、多摩市民のわたしは知る由もない。

 

今回の目的のザリガニは記憶していたよりも赤くてチャーミング。肩を寄せ合って人間においしく食べてもらうのを待っているように見えるが、完全な妄想である。

 

身を取り出そうとして軽く頭を引っぱると、いとも簡単に味わいゾーンが登場。ザリガニのネガティブなイメージから、身を取り出しにくいというイメージだったのだが、IKEA用に特別な訓練を積んだザリガニなのかもしれない。

一匹が小さいのでボリューム感はないが、ロブスターを凝縮したような味で、臭みもなく、4つではまったく足りなかった。10年ぶりくらいにいただいたが、記憶をはるかに上回る味だった。前回いただいたときは考え事でもしていたのかもしれない。

 

IKEAのレストランは炭水化物を欲したときはパンで補完するしかないと思っていたのだが、単品でライスを供していた。過去の写真を辿ってみたら昔から供していたようで、前回は妙なプライドが邪魔をしてライスを頼まなかったようだった。しかし、ザリガニにはごはんだし、ここはストックホルムではなく立川である。

 

IKEAのサイトには30匹のプレートもある旨の告知があったが、西東京にはザリガニプレートは早すぎると思われているのかもしれないし、注文する人が少ないのでリクエストがあったら準備する方針なのかもしれない。ザリガニだけで食い倒れてみたくなったので、来年のザリガニ祭りのときには恥をしのんでリクエストしてみようと思う。ひとりで行って、みんなの代表で注文しているような芝居をはさみつつ……。

 

都心に行けば、さらに本場に近い、すばらしいスウェーデン料理がいただけるに違いないと思う。いつか行ってみたいと憧れているのだが、どっぷり西東京に染まってしまったので、今回の食事も大満足だったし、スウェーデンと思ったら立川に行けばよい、という認識が深まるばかりなのであった。

 

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