ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ

読み始めたのだけれど面白い。あまりにも身近すぎるのと、長すぎるので手を出さなかったのだけれど、すごく面白い。

世界文学全集の解説で、平野謙か誰かが「全部読んでないけど荒唐無稽で面白い」的なことを書かれていたドン・キホーテ。ディスカウントストアの名称にも使われ、書かれて400年たった今でも、決して高級店の名称として使われることはなく、妖しい光を放ち続けるドン・キホーテ。実際読んでみると「これ以上小説でやることってないんじゃない?」という気分になる。すごく大雑把な言い方をすると、たとえば、ラスト20ページくらいで読む気が失せてしまった、ロブ=グリエの『段階』じゃなかった『反復』は、とにかく「読むことそれ自体」に向かわせることに執心している作品だと思ったのだけれど、すでにセルバンテスは400年前にその答えを明快に出してしまっている気がする。なんか、『反復』は、複数の話者を使ってグチャグチャにしながら、推理小説の体裁を取りつつそのサスペンス性をサスペンスサスペンスで最終的に「ぼくは今、小説を読んでいる」という状態しか残らない感じにされた気がしたのだが、ドン・キホーテは、それを難なく実現するどころか、さらに一歩進めて、「ぼくは今、楽しい小説を読んでいる」と思わせてくれる。『反復』には、単に「テクストを読む」ことに集中させるフォーマットを作り、あとはホッタラカシにされた感があるが、よく考えると、単に「読むこと」に向かわせても、面白くないテクストを読まされる刑に処せられているだけかもしれない。ドン・キホーテは、「テクストが面白いから読みたい」と思わせてくれるところがとても貴重だと思う。

「テクストを読む楽しさが満載の注目作!!永遠の前衛、セルバンテスによる奇作!」とか帯につけたい気分。