絶版になって探していたのですが、めでたく文庫化された渡部直己の『不敬文学論序説』。最近読み終わったので感想です。
- 作者: 渡部直己
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/02
- メディア: 文庫
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ここ数年で天皇家を巡る状況が、皇太子殿下の「キャリアを否定する動き」発言に代表されるようにずいぶん変わってきたと思います。あと皇室典範について国民的議論が当たり前のように沸き上がる感じもそうです。たとえば、今出ている文春でも、天皇陛下・皇后陛下の現況を
(前略)現地でもお二人は大変お元気でしたが、やはり七十歳を超えられています。陛下はいまも四週間に一度、前立腺がんの治療を続けていらっしゃいますし、皇后さまも出発前にお風邪を召され、口唇ヘルペスを患われたりしました。側近は、公務の数を絞って体力的なご負担を少なくしていただきたい、と考えているのですが、両陛下は決してお休みになろうとしません。
みたいに書いています。もちろん「不敬」にあたるとはまったく思わないで書いていると思うのですが、このあけすけな内容だと、近所の老夫婦の病状を読むようで、電車の中で老人に席を譲るのと同じような敬意しか払えなくなってしまわないか心配です。
こうなってくると大変なのが小説で、たとえば、渡部直己が批判し続けている村上春樹の、あえて肝心のことを語らない黙説法(とか、そのディフュージョンである辻仁成etc.)は、本家の天皇家をめぐる言説が黙説法をやめてしまった以上、もはや何物とも政治的に結託することが許されず、単なる普通の黙説法になってしまいます。結託する権利すら奪われてしまった以上、このルートで批判しても無効なのかもしれません。もともと書き手は無意識なんだろうとは思いますが、テーマからすると(オウムとか大震災とか)時代を表そうとしているように見える小説たちは、実際のところ、現代的であるどころか、一種の伝統芸のようになってしまっているのかもしれません。
黙説法についてはまた日を改めて書こうと思います。(むしろ、天皇よりも黙説法に興味があるので)