ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

電子音楽を中心に、2019年に聴いた音楽、ベスト10曲

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いまわたしの家のターンテーブルの上は荷物置きになっていて、だいたいスマートフォン&ヘッドフォンで音楽を聴いていた。
サブスクリプションサービスが音楽コンテンツ売上げの半数を超え、CDがなくなるどころかダウンロード販売も風前の灯……という状態だが、わたしはといえば、相変わらず物理メディアやダウンロードでコンテンツを調達した一年だった。ある程度マイナーなリスナーにとっては、新しいビジネスモデルの恩恵を受けることもあまりないのかもしれない。
 
去年は、Beatportで"Leftfield House&Techno"というジャンルの新譜を片っ端から聴いて、気に入ったものを買ってきたのだが、特に解説が書いてあるわけでなし、ただ音と向きあって自分にとってのよしあしを判断するしかなかった。それだと、第一印象がよいものしか聴かなくなってしまって、必ずしもよいとはいえないので、今年は音楽を耳にするルートを意識的に変更していく必要があると感じている。
 
ただ、そのなかで選んだ10曲は、個人的には絶対おすすめで、なるべく聴けるようにしてみたので聴いてみていただければありがたい。
 
 

◆Vaporwaveを豪快に履き違えたのかもしれない時代遅れの珍作

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I Need U / 2IAC (Childsplay)

まずジャケットにあきれた。このレーベル、どれもフリー素材をそのまま重ねているだけで、よく見たらフリーではない素材も使っていたりして大丈夫かと思う。もしかしたらVaporwaveみたいにしたいが根本的にわかっていないのかなと思ったりもしたのだが、音楽の方は、90年代っぽいハードなテクノのうえに、80年代半ばに一世を風靡するしたStacey Qの"Two Of Hearts"のイントロがサンプリングされている。

 「こんなものを喜んで聴くなんてどうなの」と言われたら何も言い返せないが、2019年にもなってこのような音楽を新譜として聴けることは個人的には大変ありがたい。
 
 

ニューウェーブ臭のするズーク再発盤

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Kwen Pe Ké Pé / Feeling Kréyol  (Strut)
ジャケットを見ただけで名盤とわかるが、オリジナル盤のリリース年は不明で、2018年の暮れにアルバムがStrutから再発。フランス領クアドループの3人組のズークユニットで、同じ地域で有名なのはKassav'で、アルバムのほかの収録曲はそんな感じだけれど、この曲限定で不思議なニューウェイブ臭がする。


Orange Juiceが骨太になった感じで他では絶対聞けない。

 

◆遠くで絶叫しているがダンスミュージック好きには優しいゴシックパンク

Blood Solstice / Gorsedd FM (Clan Destine Records)
カセットとデジタル配信のみのアルバム"NOS WYL"に収録。
ノリノリのドラムと薄暗いギターで始まったと思ったら後半のコーラスで絶叫していて笑ってしまった。こういう音楽はほかにもあるのかもしれないが、ふだんこういうゴシックパンクみたいなのは聞かないのだが、ちょうどこのアルバムはクラブ寄り(?)なので、アンテナに引っかかってきて、出会いに感謝している。
ロックンロールに悪意やら暴力を期待してしまうのは自分が中年になったからで、実際のところ、最近の若者は昔の若者よりもはるかにお行儀がよい、ということは認識しているつもりである。
 

ドトールで今さら出会った、AORのマスターピース

Answering Machine /  Rupert Holmes (MCA)

ドトールですばらしい曲がかかっていると思って検索してみたら1979年リリースのビルボードヒット曲だった。アルバム"Partners In Crime"に収録。あまり聴いたことのないジャンルでの定番に出会うと突然すばらしい品質の音楽を耳にすることになるので強いカルチャーショックを受ける。

この曲、聴けば聴くほどすばらしい。電話をかける音を楽器のように聞かせるし、歌詞のほとんどが留守番電話の定形メッセージ。これがラジオで流れまくっていたと思うとゆかいな気分になる。
 

◆タイトルに尻ごみしてはいけない90's風味の傑作

Windows 85 / Andhim (Superfriends Records)


このユニット、ふだんは今様のテックハウスを作っていて、個人的にはアンテナに引っかからなかったが、ナメたタイトルとジャケットに興味を持って聞いてみたら90年代の、ロックバンドがハウス的なアプローチを始めたころのハウス……といった趣ですごくいい。細部がぬかりなく最初から最後まで最高に楽しい。リミックス盤も出たみたいなのでそこそこ売れたのかなと思うのだけれど、また同じ路線で出してもらえないかと思っている。

 
 

小林麻美先生の最高にセンシャルなアーバンポップ

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飯倉グラフィティー / 小林麻美
聴けるコーナーがなかったので文字だけで判断していただければ幸甚。
日本の歌謡ディスコを思い出したら検索みたいな感じで消極的に漁っているのだが、ふと「そういえば小林麻美先生って『雨音はショパンの調べ』しか知らないが、アルバムに収録されたオリジナル曲はどうなんだろう」と思い、ベスト盤のリストを見ると『板倉グラフィティー』を発見、群馬県の板倉、ぼくも大好き……と思ったら板倉ではなく飯倉で、東京都港区に飯倉という地名があること自体初めて知った。地図を見ると、飯倉にある建物の多くは「東麻布」と名乗っていて、それは東京ディズニーランドが千葉にあるのと同じ現象と思うが、当時は歌のタイトルになる程度にはハイソサエティだったようで、『雨音はショパンの調べ』より、生々しくてセンシャルでよほど名曲だと思う。なお、この曲を含むアルバム『Grey』はすべて作詞はすべて松任谷由実先生が手掛けていて、当時どれだけ期待されていたかが窺い知れる。
 
 

◆ジャケットに尻ごみしてはいけない90's風味の傑作

 Wonky Wonky Wonky / Passarani (Numbers)

2017年のリリースを今さら発見した。指紋に顔を描いていてひどいジャケットだが傑作。年代で表すならこれも90年代なのだが、当時もこういうブラックミュージックにまったく由来しないハウスみたいなものはなかなか出会えず、残念に思っているうちに2000年をとうに過ぎてしまった。
この路線、円熟する前に文化が廃れてしまったが、今後もっと追求していただきたいと思うのだが、どうやら単発でのリリースで、ユニットとしてこの路線を追求するつもりはなさそうで残念。
 
 

◆圧倒的な世界観で今後すべてのリリース必聴

Creation Discoteque / Thunder Tillman (ESP Institute)
構成力抜群の無国籍民族音楽。10分超の長さだけれどあっという間に聞き終わってしまう。
このユニットのことは昨年初めて知ったのだけれど、過去のリリースも抜群によかった。今年出会えたユニットで新しいのはこれくらいだった。
この曲のプロモーションビデオはないが、別の曲で、卓越した音楽性がわかるビデオがあるのでぜひご覧くださいませ。
 
 

◆Red Axes ✕ ベトナム = 最高


Ho Chi Min / Red Axes (!K7)

Red Axes世界の旅シリーズの第2弾のベトナム編。第1弾はアフリカ編で、そちらは手堅すぎてあまり印象に残っておらず、第2弾はアジアのどこかにしておくれ……と思っていたら、期待を遥かに上回っていたので驚いた。ビデオもたいへん楽しい。
ポップミュージックもグローバル化が進展して、どこまでがオリエンタリズムでどこからがポリティカリーコレクトなのかがよくわからないのだが、これはアジアの音楽を本気でダブ化していて最高に気持ちがいい。少なくとも音楽の領域においては欧米はマイノリティの文化を取り入れない限り延命はできないのだから、文化の盗用云々のレベルはとっくに通り過ぎていると思う。
 
 

◆今聞いても圧倒的な情報量に驚くハウス草創期の傑作

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I Am The Dee Jay / Z-Factor feat. Jesse Saunders (P-Vine)
この曲も聴けるコーナーがなかったのでジャケットの写真のみで……。
初めてのハウスミュージックとして知られるJesse Saundersのユニットで、彼の初のアルバム=はじめてのハウスのアルバムの"DANCE PARTY ALBUM"に収録。LP盤としては再発されていたのだけれど、今になって初のCD化、しかも日本リリースで、ハウスの草創期をなるべく高音質で体験したいという矛盾した欲望が芽生えて購入した。
聴いて改めて感じるのは、ハウスミュージックは初期段階でほとんど完成していたということで、特に"I Am The Dee Jay"は、アシッドハウスのようなレゾナンスの効いたベースや、ヒップハウスのような適当なラップが絡み、サビはガラージュのようで、すべての要素が提示されていたという事実を確認することができた。
それぞれの要素はハウスの派生概念として成長していくのだが、すべての要素が詰まったこの曲のコンセプトの強さは抜群で、歴史的資料というだけでなく、頭に残ってしまって、「今ごろ何を聞いてるの」と思いつつ、何度も何度も聴いてしまった。
 
 
 
 
去年は、ジャンルやミュージシャンなどで掘り下げていけるようなタグをうまく見つけられなかったのだが、見つからないのかそもそも存在しないのかはわからないが、努力していい音楽を探していこうと思う。