ココロ社

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東京・武蔵御嶽神社の彫刻の修理が、東照宮より断然かっこよい仕上がりだったので度肝を抜かれた

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まずこの兔を見ていただきたい。うさぎというより兔と書きたい、獣の躍動感。
写真だけでも釘付けになってしまう。何回か行っていたのだけど、こんなに素晴らしいとは知らなかった。あまりにも驚いたので、他の記事を準備中だったのだけれど、今回は奥多摩にある武蔵御嶽神社の彫刻の話。

日光東照宮の修繕が賛否両論だが、目指しているものはリアリティでもかっこよさでもない

日光東照宮の塗り直しが賛否両論である。賛否両論というのは、想定以上に非難されていることの婉曲表現なのだけれど、たしかにだいぶ違うよねと思いながら、そうはいっても、実物を見ないことには……と思って特急けごんに飛び乗った。実際には前日に東武線の自販機で買って翌日早起きして乗った。
日光自体はとても魅力的で、今回の修繕もまったくダメだとは思わないし、それは実際に行けばわかる。後日日光の特集をしたいのだけれど、500枚以上撮ってしまって、写真の整理から始めないといけないので、取り急ぎ、何枚か、東照宮のよさがわかる彫刻たちを紹介する。

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とくにおもしろ系の彫刻を見ると、リアリズムなどはどうでもいいんだなと思える。江戸のディズニーランドのようでいい。
東照宮は、まめに補修されていて色遣いが鮮やかであることが大事なのであって、以前のものとデッサンが変わっているものについては、どうなのかと思わなくもないが、ひとつひとつの彫刻が精細であることはあまり重要ではない。もともと徳川家による平和な治世を表現することがテーマなので、彫刻に行きすぎた躍動感や、生き物としての正しさがあってはむしろ問題。当時、象など見たことはないはずである……。
というか、何なの……この微妙な間隔で生えている金髪は……。

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その意味で、眠り猫はあの小さな体で東照宮のすべてを象徴しているといえる。


なお、ひさしく補修されていないところはこんな感じ。
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これを見ると、細部はいいので修理を急いでほしいと思うはずだ。そして厚塗りしていると言われた塗装も、このように早晩剥げてしまうことだろう。
わびさびどころではない姿で、東照宮にとってはこの状態はふさわしくない。


武蔵御嶽神社の彫刻は、躍動感がすばらしく、見るべき彫刻である

東照宮の修理を擁護した舌の根の乾かぬうちから申し訳ないけれど、今回紹介したいのは、東照宮よりも早く修理が終わった武蔵御嶽神社である。十二年ごとの秘仏開帳に合わせて、昨年拝殿の補修をしていたので、できたての拝殿を見ることが可能である。東照宮の修理が賛否両論であるとの話を聞いて、東照宮にわびさびを求めてどうするかなどと思っていたのだが、同じく修理が終わった武蔵御嶽神社の彫刻たちの躍動感が素晴らしい。規模が東照宮には遠く及ばないものの、東京から近く、かつ、さほど混雑していないというところもありがたい。

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これが拝殿の全景。
上から、鳳凰、龍、虎、雀の順番。

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屋根を飾る鳳凰。一瞥するとどういう姿勢なのかわかりにくいが、どうなってるのやと思いながら見ていると時が過ぎてしまう。

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龍は、毛か炎かわからない物体の流れるさまが木彫りとは思えず、そのまま出てきそう。

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鳳凰と龍はもちろんだけれど、虎もおそらくは見たことがないのに彫っていると思われる。
この背中の泡みたいなのなんだよ……。
「虎=猫を最強にした生き物」と思って作ったのかもしれないが、だいたい合っている。

猫好きの人はこれだけだと物足りないかもしれないので、念のためもうちょっとアップにしたものも掲載させていただくことにする。
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おでこがマドレーヌ状になっていて食欲をそそる。

東照宮の彫刻について、実際の動物と毛の生え方が違うという批判があったが、実物に似ていることと、彫刻としての素晴らしさはあまり関係がないということがよくわかる。


やっとこさ、実際に見た生き物のコーナーである。
自分のことを鷹か何かと勘違いして自在に飛び回る雀たちの姿も見逃せない。
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波の埋めこみ方がセンス爆発である。
壁紙の素材になりそうで、見に行く人は要望遠レンズである。

ちょっと麒麟を挟んでから、改めて脇から迫っていこう。
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ビッグウェイブを乗りこなすう筋骨隆々の兔たち。
古今東西、かわいい兔のオブジェはよく見かけるが、こんなかっこいいのは見たことがなかった。

そして、正面では控えめだった雀も、所狭しと大活躍。
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波の表現、変態じみた執念が感じられ、波だけでもご飯が何杯も食べられそうだ。


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お賽銭ボックスの修繕も抜かりがなく、感謝の気持ちを込めて大目に入れておいた。
まあこれ見せてもらって、タダで家に帰るわけにはいかんよねー。



ただ、ここで紹介したものが武蔵御嶽神社のほとんどすべてなので、彫刻だけを見に行くのもしんどいかもしれないが、ハイキングのついでに見たら、じゅうぶんにお釣りがくるほどの彫刻たちであることは間違いない。
神社の彫刻がこんなに素敵だとは思わなかったし、創建当初の姿を目指して塗りまくっても、いいものはいいのかなと思った。
なお、武蔵御嶽神社の拝殿は、文化財としての価値は、国宝でもなく、重要文化財でもなく、青梅市の指定文化財である。
文化財としてのランクは、見たときの気持ちと比例しないものもあるので、国宝や重要文化財などのブランドに惑わされない強い心があれば、世の中はもっと楽しくなると思った。

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狛犬も規格外の強さでずいぶん洋風だなと思ったら、昭和末期の彫刻だった。とくに胸毛がトゲになっているところがいい。
作者の名前かな……と思ってみたら北村正望先生。
長崎の平和祈念像よりも断然こっちの方がいいと思ってしまった。

なんだか動物だらけだが、この神社は狼が祀られていることから、愛犬の健康を祈る人が訪れる。
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犬用の清めコーナーもご用意してお待ちしております。


日光東照宮は、平和な治世をイメージさせることにより、徳川家の永代にわたる反映を体現するものでないといけない。いっぽう、武蔵御嶽神社は、修験道の神社なので、まったりするわけにもいかない。おさめられている彫刻のコンセプトは両者で当然異なる。
技術の差ではないのだが、もし、数は少なくてもいいからかっこいい彫刻を楽しみたいと思うのであれば、修理したての武蔵御嶽神社は今が見ごろ。「日本文化=わびさび」と思っている人にこそ見にいっていただきたいと思う。



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