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ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

上にぎり寿司と小ラーメンを同時に食べた私の脳内に何が起こったか

東京のはずれの何もなさそうなところを歩いて自分なりに楽しめる場所を探すのが好きだ。
地味なので誰も誘えず、記事にすることもできないことが多いのだけど。
先日も、郊外の街道沿いに歩いていておもしろそうな店を見つけた。いつもは発見と入店がほぼ同時なのだが、たまたまそのときは満腹だったし、先を急いでいたので諦めてしまった。しかし、帰ってから、寝ても覚めてもその店のことが気になって仕方なくなってきたので、改めて行ってきた。


その店は、地方だと当たり前なのかもしれない、クロスオーバーな店だった。ハウス+ヒップホップ=ヒップハウスというジャンルをご存知だろうか。ご存知でなくて一向に構わないけれど、クロスオーバーな店とは、たとえば、ラーメンとカレーの店や、焼肉とお寿司の店のことを指す。
地方は店の数が少ないから、渋谷にありそうな、スリランカ料理専門店やお茶漬けの店など、ジャンルを絞った店は歓迎されない。家族で行って、各々が好きなものを頼めるような店が好まれる。
しかし、その店は、ちょっと違った。ラーメンとお寿司の店だったのだ。東京も端になってくると、クロスオーバーな店くらいはあるだろうと思ったが、ラーメンとお寿司の組み合わせはいかがなものかと思う。この「いかがなものかと思う」の気持ちの源泉は、おそらくお寿司への畏敬の念にあるのだろう。


その店の看板を目にしてから、あの店は、ラーメンとお寿司、どちらがよりおすすめなのだろうか、とか、ラーメンの担当とお寿司の担当は別なのだろうか、などが気になったのだが、それよりも何よりも、「ラーメンとお寿司を同時に食べたら自分はどうなってしまうのだろう」ということが気になってきたのである。何も起きないかもしれないし、翌日に出社したときに勢い余って退職届を出し、そのまま装備らしい装備も持たずにスズメバチの巣に特攻を仕掛けてしまうかもしれない。


わたしもネンネではないので、お寿司とラーメンに近い経験をしたことはある。フレンチのコースをいただいたあと、家の最寄駅の前のコンビニエンスストアで、プリングルスなどを求めたりしたことはあった。いっしょに食事した人と、LINEで「今日はおいしかったねー」などと言いあうのだけれど、野暮だと思われると恥ずかしいので、「いまプリングルス食べてる」とは、指の水かきみたいなところが裂けたとしても書けない。ただ、フォアグラと穴子の焼いたん、りんごソースのせを食べた数時間後に食べているわけだから、焼いたんの余韻は短期記憶から長期記憶へと華麗に転送されているはずであって、必ずしも野暮とは言えないと思っている。
しかし、お寿司とラーメンをしかも同時となると事情は違ってくる。すでに短期記憶の段階で、いくらの軍艦巻きの上を、スープで薄茶色に染まった麺がとぐろを巻いている有様であり、長期記憶の側としても、そのような食べ物を本体が食したという記録を留めざるを得ない。これを野暮と言わずになんと表現すればよいのだろう。


その店は奥深かった。比喩的な意味ではなく、物理的に奥深かった。京都だとうなぎの寝床と評されそうだ。手前が中華ゾーン、奥がお寿司ゾーンに分かれていて、お寿司を上座に置いていたのだった。わたしは手前の席に腰掛けて、上握り寿司と小ラーメンのセット2600イェンを頼んだら、奥を案内された。上にぎり寿司と小ラーメンの組み合わせは「お寿司の人」なのである。ラーメン大盛りに鉄火巻という組み合わせでオーダーしたら、おそらく「中華の人」の扱いを受けたに違いない。
わたしはそのとき、この店で唯一無二の「お寿司の人」になったのだった。はやる気持ちを抑えなくてはならなかった。そもそも、スーパーの半額のお寿司意外のお寿司を食べるのが久しぶりなのに、このような形で「上」のお寿司とご対面するとは思ってもみなかった。
しばらく待っていると、最初に上にぎり寿し、最後に食べる位置づけのような風情で小ラーメンがやってきた。写真のお寿司の右側が少し空いているように見えるかもしれないが、その感覚は正しい。そこにはかつて、ハマチがあった。どうにも我慢できなかったのである。

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完全にお寿司を食べ終わってからラーメンを食べてしまうと、あまりお寿司とラーメンをいっしょに食べた感じがしないと思ったし、麺が伸びてしまうのも麺に対して申し訳ない気がしたので、お寿司の合間に、味噌汁をすするように、ラーメンを啜った。しかしラーメン界ではあっさりした部類に入るこのしょうゆラーメンも、お寿司と比べると味が濃いため、食べたものが即座にラーメンの味に染まってしまう。トロ以外はラーメンの味の濃さに勝てない。
結局、2600円の上寿し小ラーメンセットは、2600円のラーメンを食べた、という記憶に置き換わった。小ラーメンのはずなのに記憶上では特大のラーメンである。


食べた経験が食べながら崩壊していくという貴重な経験をした。
もしあなたが、お寿司とラーメンの店の看板を目にしたら、どんなに満腹でもぜひ立ち寄り、なるべく豪華なお寿司にラーメンをつけてほしい。


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