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ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

やめられないエターナル合法ドラッグ、その名は仁丹

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くだらない思いつきによって常に意識が混濁している。たとえば、ストックホルムの在住の人々はストックホルム症候群のことをどう思っているのかに想いを馳せてしまう。馳せられた人たちもいい迷惑だが、わたしがもし、"I'm come from Stockholm."と言われたら、いちばんに思い出すのはストックホルム症候群のことであり、しかも一般論としてのストックホルム症候群的な心理状況について聞きかじっただけで、籠城中に加害者と被害者が仲良くなってしまう現象であるという程度の認識しかなく、ストックホルムで何が起きたのかを詳しくは知らないし、そもそも事件が起きていないときのストックホルムがどのような都市であるのかもわからない。たとえば、悪質なバイラルメディアで「ストックホルムは、ストックホルム症候群と名付けられた事件が起きていないときは、ストックホルム症候群的な状態に至ることすらないほどの凶悪事件多発都市だった!」という趣旨の作り話がばらまかれていても信じてしまうかもしれない。しかし、これらの困惑がストックホルムから来た人に伝わってしまっては失礼にあたるので、口角は常に上げ、眉間はツルッツルにしておかねばならない。

ストックホルムの人たちは、ストックホルム症候群のことを好きでも嫌いでもないのかもしれないが、「ストックホルムといえば症候群」と思う人が多く、ストックホルムの自然や文化について関心を持つ人が少ないことをちょっぴり残念に思っている……というのがわたしの仮説であるが、ストックホルム症候群が現在のストックホルムの人たちの暮らしにさしたる濃さの影を落としていないと仮定したとしても、人間性の限界を示した残念な事件について、誰かが安易な名付けをしてしまったことはたしかだし、もしわたしが、何らかのネガティブな事象の命名権を得ることになったら、都市や人の名前をつけるようなことは控えたい、あるいはわたしの名をつけることで十字架を背負いたいと強く思うのだが、実際のところ、このように意識の混濁した人間に命名権が与えられるほど世の中は甘くないのであり、ここまでの思考や決意は、ひとことでまとめると「無駄」なのである。

―このような、意識に横たわるツイストドーナツ状の思念のうねりを一掃したくて、ミントタブレットの一番スッキリ感のあるものを日常的に服用していた。口に含んだ瞬間は痛みにも近い清涼感ですべてを忘れることができるのだが、いや待てよ、ここまで清涼感のあるものは体に悪いのではないか、いやいや、人工のものが体に悪いというのであればほとんどの薬品は体に悪いということになってしまうし、いっぽうで天然なら体によいかというとまったくそんなことはない。友だちが天然のものは体によいみたいなコメントをすると、そのたびに、ではフグの毒はどうなのかと詰め寄っていたが、調教および選別が完了してしまったため、わたしの友人でそんな不用意な発言をする人はいなくなってしまい、それはそれで一抹の寂しさを感じないわけでもない……などと、たちまち不要な思念のうねりに飲まれてしまい、またしてもミントタブレットを口にせざるを得ないのだ。服用を始めたころは、代表格であるフリスクを服用していたが、ミンティアに鞍替えした。ミンティアだとおよそ半額になるのだが、値段を下げてでも清涼剤をさらに大量に服用したいと思っている自分自身に失望して、そのことがさらにミントタブレットの乱用に拍車をかける。重度のアルコール中毒患者はヘアトニックを飲むという話を耳にしたことがあるが、同じくらい必死なのかもしれない。



そんな(どんな?)ある日、フミコフミオ先生の仁丹服用の報を目にし、「仁丹」の二文字がわたしの脳内を駆け巡った。そう、仁丹があることをすっかり忘れていた。仁丹といえば祖父が服用していて、わたしも口にしたことがあったが、「薬みたいでまずいという記憶しかなかったのだが、あのころ「まずい」と思っていたものの多くは、むしろ今は「特別おいしい」に変わっている。たとえばみょうが、アボカド、菜の花、春菊……これらは「まずい」と文句を言い続けても定期的に母親が食卓にあげ、執念深いプロモーション戦略の結果として、いつしか好きになっていたのだが、仁丹にその機会はなかった。仁丹を定期的に勧めてくれる存在がいればと思うのだが、祖父はわたしが小学校2年のときに突然の心臓発作で他界してしまったのだった。

前置きが長くなったが、ポスト・フリスクの清涼剤として、仁丹が非常によい、というか、やめられなくなったという話をしたい。
ミントタブレットに代わって仁丹を服用すべきである理由は以下の4つの点においてである。



健康によい、というか、少なくとも悪くない
仁丹の成分が体によいかどうかはわからないが、おもに丁子の強烈な苦味で気分が爽快になる。丁子といえば胃腸の消化によいようだが、実際何グラム服用すればよくなるのかまではわからない。ただ、少なくとも、ミントタブレットを何グラム服用しても胃腸の消化がよくなることは決してないと考えれば、微量だとはいえ、いくつかのアドバンテージがあるといえる。

価格が安い
マツモトキヨシなどで売られている仁丹はしばしば大型の瓶なのだが、3250粒入り。約と書いていないところが日本のプロダクトだなと思わせる。計算上、1回10粒、1日10回までなので、およそ1ヶ月、休みなく服用しても1150円である。なお、小さなケースだと、かなり高くつくので、お試し用と考えるか、ケース代も払うつもりで買うときのみおすすめ。

コンパクトである
ミントタブレット中毒になってしまうと、2日に1個使いきってしまうこともザラで、ゴミがたまるし、そのゴミを見た自分自身についてもゴミなのではないかと思ってしまうのだが、その点、仁丹は1か月に1回でよい。

かっこいい
写真を撮ったのでご覧いただきたいのであるが、とにかくかっこいいのである。
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また、こんなカッチョエエものを口の中に入れている自分は最高にカッチョエエ存在である、と思え、それだけでもずいぶんな清涼感である。
瓶を傾けると、口が大きく、俺も俺もと銀の粒が登場して収拾がつかなくなるので、携帯用ケースつきのものも合わせて購入するとよい。現行で販売されている金あるいは銀のケースは、バネが効いていて、無駄に出ないようになっている。

また、さらなる高みにと思っている方には、ヤフーオークションで「仁丹」で検索したら、戦前のものから出てくる。一部、当時の仁丹がそのまま入っているものもあって、一粒くらいなら口に入れても死にはしないのでは?などの出来心がわいてきてしまう。こけし型の仁丹入れをオークションで発見し、大日本国防婦人会のメンバーが乱用している妄想を膨らませながら使いたいと思ったのだが、競り負けてしまった。



初心者は少なめのサイズから始めた方がよいと思うけれど、中華料理やインド料理などのスパイシーな料理が好きな人にとっては、ミントタブレットよりもおいしいと感じられるかもしれないので、仁丹は老人のものであるという偏見を捨てていただき、チャレンジしていただきたいと思う。



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