ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

2014年4月に出会って深く感銘を受けた名盤たち

何年かぶりに音楽やら本と落ち着いて接することができる状態になった(労働時間が減ったという意味)ので、これからはいろいろ紹介していこうと思う。
まずは今月出会った音楽から。

謎のユニットによる濃縮無国籍音楽旅行

Everyone Is A Door / Panoram (Firecracker Recordings) CD/LP
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このユニット、これまでリリースされていたのは1枚。DJ Harveyのミックスの冒頭に大抜擢されている。

エックスランド・レコーズ・プレゼンツ・XMIX01

エックスランド・レコーズ・プレゼンツ・XMIX01

話を戻して、この初アルバム、Amazonでは取扱いなしだけれど、検索すれば在庫切れになっていない店もなくはない。フォーマットがLPの店が多いのでプレイヤーのない人はBandcampでダウンロード販売を利用するのがいいかもしれない。
ディスクユニオンではFloating Pointsと比較されていた。Floating Pointsと比べるということは、端的に言うと、超大型新人であるという意味なのだろう
。Floating Pointsは、よくも悪くもデトロイトテクノの正常進化だけれど、Panoramはどんな音楽が背景になっているのかわからず得体がしれない。艶のあるシンセリードがあっという間に猥雑なディストーションギターに変化したり、次々に現れる音についていくのが大変で、ついつい繰り返して聞いてしまうし、一言で表すと……「超いい!!!」
フォーマットも3~4分でビートレスな曲も多くあり、クラブに展開する気がなさそうなところも大物感があってよいのだけれど、このあとVakulaか誰かがクラブ用にエディットしたのをシングルカットしていただけると幸甚。
試聴するだけならSoundCloudにあるのでヘッドフォンでみっちり、耳がおかしくなるギリギリまでボリュームを上げて聞くと覚醒するし、もともと覚醒していたつもりの人も寝ていたことに気づくはず。


北欧NuDisco大御所のヒット作がギッシリ詰まった事実上のベスト盤

It's A Album Time / Todd Terje (Olsen) CD/LP

It's Album Time [デジパック仕様 / 輸入盤CD] (OLS006CD)

It's Album Time [デジパック仕様 / 輸入盤CD] (OLS006CD)

代表曲の"Inspector Norse"など、2012年以降のシングルの大半が収録されているお得盤。
「アルペジオのベースに哀愁漂うシンセ」という、いわゆるひとつの北欧NuDiscoなのだけれど、引き出しが多くて飽きない。
アルバムとしての完成度も高いと思うので、そういうのを気にする人も安心。個人的にはたくさん曲が入っていて、捨て曲が少ないというだけで幸せなのだけど。
7インチで先行シングルカットされた"Leisure Suite Preben"は、まるで映画音楽のようだけれど、イントロからたちまち心を奪われてしまうので、実際に映画に使われたりしたら、映画の内容がまったく頭に入ってこないだろう。
"Johnny and Mary"では、Bryan Ferryを連れてきてRobert Palmerのカバーを歌わせている。最近、"Don't Stop The Dance"のリミックス盤が出たこともあり、今の声がくたびれ果てていて健康状態が少々心配になってしまったけれど、もしかしてChris Reaの"On The Beach"のように歌ってみたのとちゃうかという気がしてきて、そう思って聞くと実に味わい深い。
クリエイターの個人的なあれこれは気にしないけど、Todd TerjeはTodd Terryをもじってつけた名前らしく、たしかに初期の彼はハードハウス期のTodd Terryの筋肉質なイメージの21世紀版を思わせる音作りをしていたようにも思うけれど、大御所になってしまった今となっては、秋本治がデビュー当時に山上たつひこをもじって「山止たつひこ」と名乗っていた件と同じになっているのだった。


100ドル超で取引きされていた初期シカゴハウスはみだし名盤がまともな音で復刻

House Nation Under A Groove/ Da Rebels(Rush Hour) 12"EP
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最近再発が続いている初期シカゴハウス。ちょっと前は総本山TRAXの再発があったけど、リイシューの魔の手はClubhouseにも伸びてきた。早くHouse Jamにも伸びてきてほしいなぁと思う。
このユニットの片割れはのちにCajimireやGreen Velvetとしてさんざん名を馳せるのだけれども、栴檀は双葉より芳しというか、ラフレシアは双葉より臭しというか……初期シカゴハウスの簡素なトラックの上には"One Nation Under A Groove"をもじった無気力な声。今回はオランダRush Hourからの正規リリースなので音質もよろしく、いっそうトラックの骨格が露わになっている。この寒々しさはご褒美です……。
B面はいちばん飛ばしていた時期のMr.Fingersを思わせる不条理なシンセリードによって貧乏くさい魔境に連れていかれる。
原盤は4曲入りで今回は2曲になっているのだけれど、ほかの2曲がどんな按配なのか気になる。このへんのシリーズ、採算がとれているのか心配になるけれど、わたしは間違えて2枚買ってしまったので少しは貢献しているのではないかと思う。
リリースから25年経つが、いまもテックハウス系のDJにも使われているらしい。ここまで異端ならかえって普遍性を獲得できるのだろう。