ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

400年続いた鉱山が華麗なる変身を遂げ、不思議地底王国「美川ムーバレー」が誕生した

岩国について調べると、錦帯橋の名ばかりが出てくる。
いままでよく見てこなかったから気づかなかったのだけれど、もしかすると錦帯橋は巨大な橋で、その中に岩国市街があるのではないか。
橋の斜面上に店舗を構える駄菓子屋は、スーパーボールだけは金庫に入れて管理し、店の外に跳ねていかないよう気をつけなくてはならない。
空港の名前が「岩国錦帯橋空港」だから、やはり橋の上に空港があり、傾斜のかかった滑走路には、キャリアを積んだパイロットしか着陸できない。

―などと、無知を装った嫌味を口にしてしまいたくなるほど、岩国については錦帯橋の話ばかりが書かれているのだが、読めば読むほど、橋のことは決して嫌いではないものの、夢に出てくるほどには橋が好きではない人は、きっと、「日本一おいしいはんぺん」を差し出されたときの気持ちと同じような気持ちになるに違いない。

しかし、日本一おいしいはんぺんを出す店が、同時に日本一おいしいちくわぶと、日本一おいしいつみれを出す店だと仮定すると状況は一変するだろう。


新幹線・新岩国駅からのエクストリーム乗換えで清流線へ

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新岩国駅のまわりには巨大なスナック喫茶があるだけだった。
きっと店先にはサンプルのナポリタンがあって、ほどよく脱色していることだろう。
隣で同じく色褪せている焼きそばとは、麺が縮れているかどうかで見分けることができるはずだ。
そもそもスナックという存在自体、わたしは行ったことがなく、紫色のベールに包まれている。
ここにさらに「喫茶」がつくとどうなるのか、意外と中和されて普通になってしまうのか、想像もつかないのだが、あまり時間がなかったので岩国清流線のホームに直行した。



清流線の新岩国駅は、新幹線から数分歩くとたどり着けるが、切符売り場も改札もなく、草が生え放題。一見すると廃線になったのかとすら思ってしまう。
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名もなき草たちよ……ここは現役の公共交通機関なんやで……。


―などと思っている間に電車がきた。
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電車はわずか1両だった。
1両で量的には十分だというのはわかるけれど、都会人の定義では、電車とは、15両程度のものを指し、10両くらいから電車とみなされなくなってきて、8両以下になってくるとバスと見分けがつかなくなってしまう。
1両の電車がいきなりやってくると胸が高鳴りすぎて初恋のときのようになってしまうので、可能であれば、事前に1を暗示させる数え歌のような音楽を流し、徐々に慣らしていってほしいと思う。


この清流線、存続が危ぶまれているのかと早とちりし、「岩国清流線にもっと乗ろう、共感した人はRT」などとツイートしてしまいそうになるのだけど、会社全体では黒字とのこと。随所に企業努力が見てとれる。
まず電車の塗装がかわいらしい。先ほどの電車の画像に戻ってみる。

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言うまでもなく、ホタルがかわいらしい。
車体の色とホタルの尻から出る光の色がかぶっているところは不問に附し、連結部に注目してみる。
児童が何やらこちらに向かってメッセージを投げかけているように見える。



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運行中、見どころに到達すると速度を落とし、「括目せよ」という意味のアナウンスが入る。
地元の人の割合の方が高いので、わたしが楽しまなかったらこの徐行は水泡と化す。
カメラを持つ手が震える。


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「かじかの滝」。
小規模な滝で、きっと鉄道が開通する前は「あそこの滝みたいなところ」程度の名前で、いい感じの名づけを考えてくださったに違いなく、おもてなしの心を受け取ったのだった。

バスを待っている間、河原に降りる

目的地に着くころには、すっかり清流線の魅力に取りつかれ、終点まで行ってしまいたくなったのだけれど、それはまた今度と思いなして根笠駅で降りた。

バスは本数が少ないのだが、清流線のタイミングに合わせている模様。
15分程度の待ち時間で済むなのだけれど、その間、川岸に降りてみた。
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遠くに釣り人がいるが、大声で「釣れますか〜」と聞いて「釣れるよ〜」と答えが返ってきたとして、わたしはなんと言い返すのが正解なのかわからないので、頭の中で「釣れるんだろうな」と思うにとどめた。


バスに乗って5分少々で「美川ムーバレー」に着く。
ここで降りないと、親切な運転手さんから、「ここで降りなくてどこで降りるの?」的なコメントを頂戴することになっているようだけれども、「運転手さんは、歌を聞くとき、いきなりサビの部分から聞き始めるのですか」と答えたいところ。
終点の岩屋観音で降りて、坂を少々登る。


日本最大級の水車が脈絡なく出現

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観音を見る前に立ちはだかっているのは巨大な水車。
この水車は、ふるさと創生事業(各市町村に1億円ずつ配布していた企画)で作られた観音水車「でかまるくん」。
直径12メートルの素晴らしい迫力のある水車で、ちょっと前まで日本最大だったらしい。
ただ、特に大きさを期待されていないものが大きかったら……たとえばラーメンに入っているナルトが麺を隠してしまうほど大きかったらうれしいか……いやラーメンが普通だとしたら、「ナルトが巨大」などでも構わないので特徴があった方がいい……。
……などという逡巡を経て、この水車は最適解なのではないかという気がしてきた。
一生分の水車を見た気持ちになった。


岩屋観音窟には、カイオウ的な意味で天然記念物の仏像がある

水車のすぐ近くに岩屋観音がある。
お寺の奥にお目当ての岩屋があるのだけれど、その前の階段が急なだけでなく仁王像の顔が恐ろしく、行く手を阻むような印象と阻まないような印象を受ける。
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皮が剥けていることで、男の子の健やかな成長を願うという意味なのか……などと深読みしてしまうかもしれないが、単に管理が行き届いていないだけなのだろう。
急進派のわびさび主義者はこの皮をも肯定してしまうのだろうか。

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「仏をだまさず」のメッセージと、それを支援するように吊られた千羽鶴たち。
……仏教には詳しくないが、仏様もfacebookのスパムアカウントを承認したりするのかもしれない。
プロフィール写真がない人をまず疑ってみるのがよいと聞く。

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少々暗いので写真がぶれてしまった。
この写真の中央部のソフトクリーム状のものが、天然記念物の岩屋観音。
この仏像は木製だが、長い時間を経て、石灰華に覆われた。
北斗の拳のカイオウの死に方に似ている。
こんなものが実在したというだけで来てよかったと思ったのだけど、地味すぎて伝わらないのが残念。
この手法を突き詰めていくと、即身仏となったあと、ここに置いてもらえればカイオウみたいになれると思ったのだが、そもそも2013年の時点でカイオウのたとえを口にしても、「カイオウって誰」と聞かれるだけ。
カイオウはどんな男かというと、アーノルドシュワルツネッガーを色黒にした感じのオッサンで、ケンカがめっぽう強いが、お人柄は今一歩な男。

地底王国の全貌

岩屋観音から坂を下ること15分、「美川ムーバレー」に到着した。
駐車場に、この謎の地下帝国の前身であるところの鉱山の説明がある。
約400年の歴史のある鉱山で、タングステンの産地としては日本一だったとのこと。
いま注目されているレアメタルなんだから、再開すれば儲かるのでは?という気もしたが、採算が合わないのだろう。
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廃坑になっていた山に、世界の謎めいた古代文明がミックスされ、「美川ムーバレー」というユニークなテーマパークが産声をあげたのだった。
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このテーマパーク、随所に謎めいたオブジェがあり、そこに書かれている謎の文字を解読する冒険をする、というのが常識的な遊び方のようだ。
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王国内に入ると、オーパーツについての説明のパネルが置いてあった。
"Out Of Place Artifacts"の略で、その時代にはないはずのアイテムで云々……。
この地底王国には、あちこちに世界のオーパーツがひしめきあっているのだった。

わたしは元ガリ勉で、オーパーツについては「入試に出そうにない」という理由から勉強しておらず詳しくないが、このテーマパークのおかげでいろいろ知ることができた。

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超古代文明を解説する世界地図。ピラミッドやマチュピチュなどに混じって、ちゃっかり美川ムーバレーも載っている。

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これはバクダッド電池。
紀元前の遺跡から、金属の棒が入った壺が発見され、「これは電池では?!」と大騒ぎになったのだが、今ではこの壺は、単に巻物を保存した容器で、金属は飾りだったという説が定説になっている。

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これはコロンビアの黄金スペースシャトル。
たしかにスペースシャトルに見えなくもないが、当時飛行機があったと考えるより、リアリティに無頓着な金持ちが鳥や魚をモチーフにした像を作らせたと考えるのが自然だろう。

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これはコスタリカの石球。
真球に限りなく近いものが古代にあったと話題になったものの、がんばり屋さんが作れば手作業でもけっこうな精度のものを作れることが判明したのだった。

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これはデリーの錆びない鉄柱、アショカ・ピラー。
1500年間風雨に晒されながら、まったく錆びていないとのことだが、地下部分については錆びているらしい。


なお、仮にデートでここに来るのであれば、ウンチクを開陳して相手を落胆させるよりも、不思議がった方が印象がよくなることは言うまでもない。

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「ああっ!トゲトゲが……とか思うわけなかろうが」と思って数分後、地図を見ながらこのトゲトゲで頭を強打したので、あまり過度の油断は危険。

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オーパーツの他には、神殿のようなものも設置されていて、家族連れの方は記念写真を撮っていたし、そもそも家族連れでないのはわたしだけだった。


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突然、ライトアップされた滝が現れた。
この水は坑内から出てきているのだろうか。
もし水道なら、費用がすごく気になって落ち着かないので、流量を控えめにしてほしいところだ。


鉱内の随所に置かれた謎の暗号

坑内の随所に暗号を記したパネルがある。
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こんな暗号を解いている暇があったら2次方程式の解の公式でも覚えていた方が得なのではないか、と思った。
しかし、そもそも2次方程式の解の公式も社会に出てから使うことはまずないのだから、知的活動のほとんどは何の得にもならないというあきらめが必要なのかもしれない。


タングステン鉱山の名残りも少しだけ

その道に詳しい人にしか鉱山時代の名残はわかりにくいのだが、唯一、トロッコがそのまま置いてあるところがあり、古の姿を彷彿とさせる。
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「これ、400年前の坑夫が見たらひっくりかえるだろうなー」と思いながら見ると、このテーマパークをいっそう楽しむことができると思う。

そして、あまりにも適当に歩いていると出口がどこにあるかわからなくなるので、最初にもらう地図は大事にした方がいい。
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夢中になってしまう砂金掘り

小1時間歩き回ると地底王国の旅は終わるのだが、出口付近にある砂金掘り、実際にやってみると想像よりもはるかに楽しかった。
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砂金はこってりコースとあっさりコースがある。
わたしがそう呼んでいるだけだけれど。

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本気で砂金掘りは恥ずかしい、という方は入水せずにあっさりコースで砂金を掘ることもできる。

しかし、本気で砂金を掘るのであれば、長靴を借りて池に入るこってりコースを志願し、腰を痛めながらがんばる道をゆくのも悪くない。
やり方はいたってシンプル。

この皿を、なるべく底に突っこんで砂をさらう。
金は比重が重く、底に沈殿している可能性が高いから、最底辺を狙えとの指示を受けた。

砂をさらったら水の中で回しながら砂を減らしていく。中腰で皿を回すのは重労働。

皿の底が見えるようになってくると、キラリと光るものあり!
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あっという間に制限時間の30分が経ってしまった。
掘った砂金は100円払うと自分でカードにすることができる。

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わたしは2片の砂金を掘りました。砂金掘りの才能があるのかもしれない。
しかし、いい歳でそんな才能を見つけたとしても、いままでの時の重さが身に染みて、ため息が出るばかりだろう。


昼食は「レストラン・ムー」で、インカコーラとピラミッドカレーをキメる

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観光地のレストランといえば、不当に高価格な料理と相場が決まっているのだが、ここは料理がオール500円という破格の設定で、そこまで出血されたら止血しないわけにはいかない。


この店ならではのメニューはピラミッドカレー。
店内の自販機でインカコーラを買えば当時のエジプト人とまったく同じ食事になる。
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なお、最近の研究結果では、ピラミッド建設に携わっていた人夫は、奴隷ではなかったとのことで、その意味でも安心していただくことができる。


バスが来るまでの間に入浴も可能

「美川ムーバレー」には、「ほたる」という宿泊施設も用意されており、サイトのスケジュールを見た限り、週末は比較的埋まっている。
バスの待ち時間は、ここで入浴して謎解きをしたりしなかったりした疲れを癒すのもいい。


錦帯橋は、ガイドで見るより危険

帰りの清流線では、岩国駅まで行かず、川西駅で下車した。錦帯橋へ、徒歩20分ほどで行けるからだ。
岩国駅からバスで行くと、降りてすぐ錦帯橋が近くで見られるのだが、徒歩の方が、木々によるチラリズム的演出とともに徐々に見えてくるので気持ちが高まる。
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錦帯橋は、川幅200メートルの錦川にかかる橋で、創建が1637年。
何度か再建されたり修復されているけれど、400年近く前なのに、30メートル以上の距離を脚なしで渡せる技術があったとは驚き。

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下から見ると、斜めに組んでいる木がある。これが強度を増しているのだろう。


「有名な観光地=安全」というイメージがあるが、錦帯橋に限っていうとまったくそんなことはなく、スリルすら感じられるほどの高さ。
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こんな透明度の高い川に落ちたら、痛みはさておき、丸見えで恥ずかしいのかもしれない。

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錦帯橋の滞在時間は橋を渡って川岸に降りてしゃがんでブツブツしゃべっても1時間程度。
昼間に行くと時間を持て余すだろうから、早朝に行って、そのあと美川ムーバレーなどに行くか、あるいは美川ムーバレーに行ってから錦帯橋、などがいいと思う。

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夕食は、岩国駅前の一等地にあるざっくりした看板に導かれて中華そばの店「寿栄宏食堂」に入ってみた。

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食べログでは「懐かしい味」的な評価で占められていて、つまりは思い出がない者にとってはおいしさ控えめなのか……などと勘ぐってしまったのだが、この店が家の近くにあったらめっちゃ通ってしまうやろなと思えるほどいい味。
渋谷の道玄坂にある有名な……なんやっけ、よりも好きな味。

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岩国に来てよかった、などと、すっかり真夜中になった気分で一日のまとめをしながらアーケード街を歩いていたのだが、このときはまだ19時だった。


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