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ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

オリンピックで激増するスポーツハラスメント、略してスポハラ

主張


オリンピックの季節ですねー。「オリンピック……それって何?」と思っている方もいると思うので簡単に説明させていただきますと、オリンピックとは、各国から選ばれた体力自慢の人々が国の威信をかけて競い、体力に自信のない人たちは大画面のテレビを通じて、どんなに自分と姿形が似ていなくて趣味が合わなくても、自分の属する国籍を有しているというのでればその選手たちをしばしば夜を徹して応援し、その結果について翌日学校や職場で確認しあい、たまに仕事の話をするときのたとえ話に使ったりする……というコミュニケーション能力とナショナリティの祭典のことを指します。ワールドカップもだいたい同じです。

「きのうのアレ、当然きみも観戦したと思うんだけど、感動したよね」的なムードに吐き気がする

昨日のスポーツの結果について、「きのうのアレ、当然きみも観戦したと思うんだけど、感動したよね」的に会議のアイスブレイクとして話題にのぼる状況、これは英語で表すと「fuck」あるいは「shit」です。どっちかというと、もともとなかったアイスがメイクされてしまいます。あなたが見ているスポーツとやらにわたしはまったく関心がないのに、あたかも見るのが当然であるかのように言われて心外です。はやく本題に入ってほしい。会社は仕事をするところであって、昨日のスポーツの結果について語り合う場ではありません。労働者の当然の権利である有給休暇をまとめて使ったりすると嫌な顔をするくせに、労働者の権利でもなんでもない、仕事中にスポーツの結果について語ることは容認される風土を改めて英語で表すと「fuck」あるいは「shit」です。
しかもスポーツの結果はプロ野球の話ではないところがポイント。タイガースについて「虎みたいに強い」(注:スポーツに興味がないので、いまのタイガースが虎みたいに強いかどうかは知りません。いちおう虎みたいに強くあってほしいという願望をこめて「タイガース」と命名しているはずですから、まったくかけ離れていたりはしないと思いますが……)などと延々会議の最初で語って、ジャイアンツファンが噴きあがって会議の最初から不穏なムードになったりするなら興奮するので見てみたい気もしますが、かならずワールドカップかオリンピックのときしか話題にしないのです。「日本人なら全員日本を応援してるよね」と強要を迫る。これこそがスポーツハラスメントの本質です。別にオリンピックの選手には何の恨みもないけれど、今回のオリンピック、日本の選手は早めに敗退してほしいです。しかも普通に敗退してしまうと、「昨日は残念な結果でしたが、それを他山の石として弊社も……」といった調子で、何も学びやしないくせに、仕事とスポーツを関連づけて語る人が出てくるので逆効果。競技中に脱糞して負けるなど、オフィシャルな場で語りにくい、下ネタを絡めて敗退していただきたいところです。あと、アメリカやイギリスにボコボコにされて敗退してほしいです。インドや韓国や中国に負けてしまうと、絶対スポーツで負けたことと経済的に追い上げられていることが関係あるかのように語る人が出てくるからです。

クラスの端っこにいた仲間がスポーツ好きに転向していく寂しさよ……

ふつうにスポーツが好きならばわたしも何も言いません。小さいころからテレビにかじりついてオリンピックを見ているのならいいです。テレビに近づきすぎると、躍動感満載の筋肉が、赤白緑の3つの色の粒々で構成されているにすぎないということを確認して興ざめしてしまうかもしれないのでその点は注意が必要になってくるものの、中学生のときからオリンピックと聞いただけで、のぼり棒を高速でのぼったりおりたりするときと同等の快感を覚えてきたような方は、引き続き、同じ気持ちでオリンピックをエンジョイできたらいいなと思います。わたしが問題にしたいのは、中高生のときにどう考えてもスポーツと無縁であり、むしろ、スポーツに邁進したり、それを観戦している同級生をアホ呼ばわりしていた人たちが、いつのまにか鞍替えしてしまっているという事実です!
ぼくたちはたしかにあのとき、クラス対抗のスポーツ大会をズル休みして、生きづらいマイノリティ同士として、部室で空手バカボンを聞いたり山田花子のマンガを読んだりしていたはずだろう?「たかだかスポーツの勝敗ごときで熱くなるなんて、あいつら子供やね〜」「同じクラスだからって団結すべきとか言ってて、デリカシーのかけらもないわー」「キャーキャー言ってる女子たちは本当に趣味が悪い!」などと話してたやん?同じクラスであっても、スポーツが好きな人とそうでない人の2つに分断されており、マイノリティに対して無理解なサッカー部の部長のことをうざいと思ってたやん?ぼくはあのときの山田花子のマンガを今も持っているけど、空手バカボンのレコードはどこにやったの?え?引っ越しのときに燃えないゴミといっしょに……さよか……。
鞍替えした人たちはちょっと後ろめたい気持ちがあるのでしょう。言い訳にならない言い訳をします。「いろいろ考えてたけど素直にいいと思うものをいいと言えるようになるのが大人じゃないかな〜」……「ないかな〜」ちゃうわ!たしかにいいと思うものをいいと言えるのは大人やけども、つまり、ぼくと「つまらんよねー」と言い合ってたとき、実は心の奥底で「いいと思ってるけどなんか言えない……」とか思ってたということよね?
また、蓮實重彦などがスポーツを批評的に語っているのを援用している文化系っぽい人を見たりすると残念な気持ちになります。権威を持ち出して自分のスポーツ好きを正当化しようというのですか。言い訳しながら遅まきのスポーツ観戦デビューですか。そんな手のこんだことをするくらいなら、あのとき、クラス対抗スポーツ合戦に参加して、クラスの仲間と泣いたり笑ったりしていればよかったやん!本当はそうしたいと思ってたのに、現状ではクラスの底辺として参加することになり、プライドが許さない、と思ってたってことやろ?クラスの端っこにいるというのと、クラスの底辺にいるというのはまったく別の話です。それってただの負け犬の遠吠えだし、そんなんと一緒になりたくなかったわ!
読解力が減退しがちな夏なので念のため繰り返しておきますが、もとから文化系かつスポーツ好きな人はいいのですが、スポーツにファシズムの匂いを感じていたはずの同志の裏切りを「おまえもか…」と感じているだけです。



―こんな調子で書くと、「みんなが楽しんでるところに水を差すようなことを言うなんて野暮だ!」という反論を頂戴するのでしょう。
わたしにっては、「夏を満喫しようとしているのにオリンピックによって水を差された」という認識ですが、仲間と思っていた人も実は仲間じゃなかったりすることが判明するナショナリティ確認会あるいはマジョリティ確認会であるところのオリンピック、日本代表の方々は、メダルをたくさん日本に持ち帰って沈没国家日本の現実を一瞬でも忘れさせてほしいものです!