ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

時事小説『老舗料亭、食べ残しの秘密』&はてなに行きました

時事小説のコーナーです。時事問題に関連して妄想を綴るのって、わりと小説の王道だよなーと思ったので時々書きます。

                                                      • -


二代前の店長が極度の恥ずかしがり屋で、歴史を示す資料のほとんどが焼却されたせいで、料亭「兆兆」の正確な起源は明らかではないのだが、少なくとも、渓斎英泉の風景画に登場していることから、それなりの老舗であると見なされていた。
もちろん、歴史を支えるにふさわしい味を備えてもいた。たとえば、数の子一本にしても、通常の料亭ならば、腹から取り出したものをそのまま塩水に漬けるだけだが、兆兆では、卵をひとつひとつ丁寧に剥がして、色や弾力を確認し、基準を満たす卵のみを選びだして、人魚型の、一口サイズの数の子へと仕立て上げた。

しかし、丹念に作られた数の子も、客の口に入る確率はわずか三割程度にすぎない。ほとんどの料理は手つかずのまま残される。なぜなら、接待で、すべてを食べきれる量しか提供しないのは、失礼に当たるから、食べ残しが多くなるのは必然だったのだ。


この食べ残しに着目したのが、現料理長の鈴木兆民。彼は、その食べ残しを、ひそかに身を投じている地下組織の支援に使えるのではないか、と考えたのだった。


兆兆のそれぞれの個室には、有田焼の高価な花瓶が置いてあったのだが、花瓶をずらすと、小さな穴が現れる仕掛けになっていた。兆民はこれを「フラワーゲート」と呼んでいたが、その穴は、ファンシーな名称とは裏腹に、地下三十メートルまで達しており、残り物たちは、地下に住む秘密組織の人々に届くようになっていた。


兆兆の地下には二つの組織が潜んでいた。一つは、「日本地下グルメクラブ」というクラブで、地下五メートルのところにあった。この団体は、食通であったが、性犯罪で逮捕されたなどのさまざまな事情で表に出てこられなくなった人が、ひそかに食を楽しむという趣旨の集まりであり、フラワーゲートを通過した残り物は、一旦そちらに渡る仕組みになっていた。そして、送られてきた食べ物と同じ価格の日常的な食材を、さらに下にいるもう一つの組織に送りつけるのだった。たとえば兆兆の鮎の塩焼き一本は、ヤマザキの食パン十斤に相当した。


地下三十メートルにひそむ、もう一つの組織は「ママさんエステ撲滅委員会」で、主に中年男性によって組織されていた。
母となってもなお、女でありたいと願う女性たち。彼女たちは井戸端会議でエステの情報を交換し、より若く美しくなれるエステに誘いあって通う。それを未然に防ぐことで、家計の崩壊を防ぎたいと願う男たちの団体なのだった。
ただ、家計のことは本当のところ、どうでもよくなっていた。彼らは本音では、「エステ三回分で、俺たちのソープ一回分に相当する」と思っており、あろうことか、「もはや抱きたくもない嫁のボディに投資するのは馬鹿げた行為だ」とまで考えていたのである。この委員会の委員長が、兆民その人であった。
委員たちは、日中は窓際族のサラリーマンだったが、仕事が終わると、この委員会で肉体を鍛錬し、来るべき蜂起の日に備えていた。家族には残業があると偽っていた。


今日は、半分以上の食べ物が残った。大漁だ。
筍の土佐煮、鮎の若狭焼、たら芽の胡麻焼…
兆民はニヤニヤしながら、次々とフラワーゲートから残り物を流した。地下グルメクラブの人々は到着した食物を素早く確認し、あらかじめ協定で設定されている交換レートに沿って、食パンや生卵などをさらに地下にいる「ママさんエステ撲滅委員会」へと送った。


委員会に食物が届くやいなや、中肉中背の委員たちが食物に群がった。十分もすると、大量の食物が跡形もなくなってしまった。委員たちは、食欲が満たされると、鉄アレイの上げ下げを始めた。ときおり、鏡に映し出された自分の鍛え上げられた姿を見ながら。
「いつ蜂起しても勝てる自信がある…」


委員長の腹筋が、割烹着の上から見ても割れていることが確認できるようになったある日、兆民は革命の日取りを決めた。五月二五日だった。委員たちはただちに、それぞれの職場で、革命の日に有休休暇を取る旨を上司に打診した。

しかし…

ある者は、「月末なのに、休む気なの?」と言われ、ある者は、「うーん…休みの間、何も起こらないようにしておいてね、絶対ね」と、嫌な釘の刺され方をしたりなど、到底足並みを揃えて有休を撮ることが不可能だったのだ。


いつしか、「ママさんエステ撲滅委員会」は、事実上、「趣味のボディビル研究会」となってしまったのだった。
ちょうど、高校の部活で「映画研究会」が、事実上、「マンガ研究会」になりがちなのと同じように―

(活動報告)はてなさんにおじゃましてきました


先日載せた「株式会社はてな最強化計画」についてkwsk、ということで、副社長の川崎さん(id:kawasaki)からお誘いをいただき、はてな渋谷オフィスにおじゃましてきました。
オフィスは想像以上にフリーダム。そもそも「自席」という概念がない!…仕事帰りだったので、自由が眩しすぎました…
そのあと、川崎さんに恵比寿のすてきなイタリアンに連れて行っていただき、最強化計画の詳細について一方的にお話ししてしまいました…図々しくて申し訳ありません。件の記事も、何度も読みかえしていただいたとのことで、書いてよかった、と思いました。


お礼のメールをお送りしたのですが、わたしの話を書類におこして、社内で共有していただいた、とのこと!
お役に立てていただければ幸いです!