ココロ社

主著は『モテる小説』『忍耐力養成ドリル』『マイナス思考法講座』です。連絡先はkokoroshaアットマークkitty.jp

ハキリアリ

昨日も昨日で明治神宮などに行って面白かったのだけど、先週に行った多摩動物公園の件は、全世界に発信したいので、誰もなにも思わなくても書くことにする。キモイと思われていても平気。

多摩動物公園の中には昆虫館があって、ぼくはどちらかというとこっちがメインだと思っている。誰もが楽しめる蝶だらけの大温室から、楽しめる人が限られる世界のゴキブリまでいろいろ見られる。
なかでも素晴らしいのが写真のハキリアリで、テレビではよく見かけるけど、生で見られるのは日本ではここだけ。かなり検疫が厳しいらしい。というのも、写真左の通り、葉を切り取るので(通称「森の破壊者」)、異常増殖したら日本の木々が枯れるおそれがあるから。

で、切り取ってどうするかというと、巣に持ち帰って、細かく噛み砕き、それを栽培床として、キノコを栽培(写真右)、それを食べて暮らしている。キノコの栽培ってちょっと地味だけど、一応農業をしているということで世界中のアリから一目置かれていて、「オレは学がないからよくわからないけどさ、農業できるってスゴイと思う。オレが知っているということは、人間が吐き捨てたガムを巣に持って帰っても、巣がネバネバして、女王アリ様に嫌な顔をされるだけってことぐらいだよ」と言うアリも多いと聞く。

以下、協和発酵のホームページより

ハキリアリの巣の中は、まるで都市のようでそこには200万匹を超(こ)えるハキリアリが棲んでいます。巣を作るために掘り出す土は、なんと40トンにもなるといわれています。これからお話しするハキリアリの不思議な行動もドーキンスによれば、利己的遺伝子(りこてきいでんし)にコントロールされていることになります。
ハキリアリは地下の巣のなかに「菌園」(きんえん)と呼ばれるキノコの農場を持っています。まるで人間が行う農業と同じようなことをしているのです。巣のおくにあるキノコ畑では、働きアリが特殊(とくしゅ)なキノコを植えつけ、食糧(しょくりょう)にするために育てています。このキノコを育てるために必要な植物の葉が集められ、キノコの苗床(なえどこ)にするためにパルプ状になるまで細かく噛(か)み砕(くだ)かれます。土のなかは高温多湿でキノコ栽培(さいばい)には最高の環境にあります。
最近、ハキリアリはキノコを病原体から守るために抗生物質(こうせいぶっしつ)を利用しているという驚(おどろ)くべき事実が明らかにされました。キノコ畑を侵(おか)すのは「エスコボプシス」と呼ばれる病原体です。この病原体をおさえることができる抗生物質を作る特殊な細菌をキノコ畑で培養(ばいよう)しています。
ハキリアリは5000万年も前から抗生物質を利用してきたわけです。人類が抗生物質を発見したのがわずか50年前のことです。もっと不思議なことは、ハキリアリは同じ抗生物質を5000万年も使っているのに、いまだに効果があるということです。人間が開発した抗生物質は、すぐに耐性菌が出てきて効果がなくなってしまいます。
さらに驚(おどろ)かされるのは、ハキリアリはキノコ農園だけでなく牧場も経営しているという事実です。飼(か)っている家畜(かちく)はウシやブタではなくアブラムシ(別名:アリマキ)です。アブラムシは植物の汁を吸(す)って、その一部を体の外に分泌(ぶんぴつ)します。アブラムシが分泌する汁は、糖分(とうぶん)が含まれてとても甘いので、ハキリアリにとって大好物なのです。
これだけの関係なら単なる共生(きょうせい)ということに過ぎませんが、ハキリアリはアブラムシを天敵(てんてき)から守るために、アブラムシの卵を自分たちの巣のなかに持ち込んで世話をするのです。ここまでくるとアブラムシは、ハキリアリにとって立派な家畜ということになります。ハキリアリは卵から育てたアブラムシを植物にもどしますが、放牧(ほうぼく)のようなものです。
さてここで、なぜハキリアリはキノコを育てたりアブラムシを飼っているのかという進化論の問題が発生します。ハキリアリがしているキノコ畑の経営という行動は、遺伝子(いでんし)によって支配されています。つまりハキリアリはキノコ栽培をする遺伝子をもっているわけです。
この遺伝子はハキリアリとまったく関係のないキノコを助けています。その意味でハキリアリが行っているキノコ栽培は犠牲的(ぎせいてき)な行動ということになります。しかし、ハキリアリの遺伝子(いでんし)が秘(ひ)めている隠(かく)された目的は、キノコをハキリアリの子どもたちに食べさせることにあります。つまり、ハキリアリの遺伝子は間接的に子どもたちを助けることによってハキリアリを増やすことに貢献(こうけん)しています。
もちろん、このキノコ栽培をする遺伝子は、目的がハキリアリを増やすことにあると思っているわけではありません。しかしながら、このような遺伝子をもっていることが自然淘汰(しぜんとうた)で生き残っていくうえで有利(ゆうり)に働いたことは確かです。
キノコやアブラムシにも利己的遺伝子(りこてきいでんし)があるはずです。ハキリアリは自分たちのためにキノコ栽培をするわけですが、キノコの側から見ると、自分たちのためにハキリアリに栽培させているということになります。
キノコはハキリアリの食糧(しょくりょう)として食べられてしまいますが、それで絶滅(ぜつめつ)するわけではありません。食べられるのは一部のキノコであって、進化論の立場からいわせていただくと、キノコはハキリアリの食糧になることによって生き延(の)びてきたのかもしれません。
アブラムシもいやいや家畜(かちく)になっているのではなく、自ら進んで、ハキリアリ好みの家畜になろうとしているのです。アブラムシは、ハキリアリがおしりに触(ふ)れるまでは体液を分泌(ぶんぴつ)しようとしません。汁を受け取る体勢(たいせい)にないと体のなかにもどしてしまうのです。ハキリアリを引きつけるようにおしりがハキリアリの顔面とそっくりなアブラムシもいるほどです。このようにアブラムシも積極的にアリを利用しようとしているのです。
ドーキンスの考えによると、こうしたアブラムシの行動も利己的遺伝子によってコントロールされていることになります。ハキリアリやアブラムシの行動を支配しているDNAの不思議な能力に、神秘的なものを感じるのは私だけでしょうか。

ま、利己的な遺伝子の話はまったく興味ないんだけど…